「上場廃止報道」の半月後には上場維持が決まった
日興コーディアルグループをめぐり、日本経済新聞、朝日新聞など報道各社が「上場廃止」と「大誤報」した問題は、その後の報道各社の検証記事や国会の質疑で大筋の経緯が明らかになりつつある。日経などの言い分と東証の見解は隔たりが大きく、
「客観的な事実確認もろくにしない、お粗末な報道ぶり」(市場関係者)
が浮き彫りになってきた。日経や朝日が「上場廃止」と判断した根拠は何だったのか、検証記事を読んでも不可解な点が多く、不信感が募るばかりだ。
毎日新聞とNHKは「上場廃止」報道せず
大手マスコミの中で今回、「東証が日興を上場廃止へ」と事前に報道せず、冷静な対応で「大誤報」を免れたのは、毎日新聞とNHKだけだった。このうち毎日新聞は2007年3月15日付朝刊で日興問題の検証記事を掲載し、
「東証の決定を前に『上場廃止へ』とする報道が相次いだが、上場維持の可能性が高いとの判断から報道を控えた」
と経緯を説明している。毎日の記事によると、東証は「過去の事例との比較」を重視しており、日経や朝日が報道の根拠とする「東証幹部」や金融庁の判断も、当初から「上場廃止の方針を固めた」わけではなかったという。
大誤報の先頭を切った日経新聞は13日付朝刊1面で「本紙『日興、上場廃止へ』報道の経緯」と題する検証記事を掲載した。その中で
「(上場廃止にするかどうかの判断を左右する)多くの法律家の意見をとったが、全部が上場廃止だった」
と東証幹部が2月24日に答えたことが、日経が「上場廃止」と報道する有力な根拠だったと「釈明」した。
この点について、15日の参議院財政金融委員会に参考人として出席した東証の西室泰三社長は、峰崎直樹氏(民主)の「報道のような事実はあったのか」との質問に対し、
「上場廃止の可否について、リーガルオピニオンを弁護士にお願いしたというのは、ひとつもございません。従いまして、(日経の報道が)本当にそうであるのかどうかについて、私どもは極めて不思議に思い、(日経に)抗議をさせていただいております」
と全面否定した。
「先行されたので書かざるを得ない」と読売記者
東証幹部が日経の取材に「日興の財務責任者が不正会計に関与しているなら十分に組織的」として「上場廃止基準に抵触かる可能性を指摘した」という点についても、西室社長は
「私どももそれを見てびっくりしました。東証幹部の範囲を少し広めにとって全員に聴取をし、全員がそのような回答をした覚えはないと、はっきりと言っております」
と、不快感を示した。
参院財政金融委の質疑のやり取りは、参院のホームページで議事録や動画が公開されている。その中で面白い一例を挙げれば、日経、朝日に先行報道された読売の記者が「上場廃止と書かざるを得ない」と西室社長に「通告」に来たという場面だ。
西室社長は
「前の日に読売新聞の記者が来て、『他の主要2社が書いてしまったから、書かざるを得ない』と通告に来たので、我々はまったく決めてないのに何でそんなことをするんですか。新聞社の今の報道の仕方とはそういうものなのかと、お説教をしたにもかかわらず、お書きいただいたということを、敢えて申し上げます」
と発言。国会で東証の社長がここまで報道の舞台裏を暴露するのも珍しい。
激しい報道合戦に「勇み足」はつきものという意識が抜けきれないマスコミには、07年1月の日銀の利上げ予測報道(実際は利上げ見送り)と併せ、大きな反省材料になるのは間違いない。