長谷川洋三の産業ウォッチ
技術: 東レ名誉会長の憂国

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「拝金主義がはびこる今の日本の風土では優秀な技術者は育たなくなった。それに比べタイでは自分たちの技術を作ろうという気分がみなぎっている」――。

   東レ名誉会長で日・タイ経済協力協会会長の前田勝之助氏は2007年3月14日、東京・神田一ツ橋の如水会館で開いた泰日工業大学設立進捗状況報告会の後、日本とタイの経済界が協力してバンコクに技術者育成を目指す大学を作ることになった意義について私にこう強調した。

   「泰日工業大学」は、日本に留学経験があるタイの経済人を中心とする泰日経済技術振興協会(TPA)が設立主体となり、07年6月に開校する工科系大学。約5億バーツ(約16億円)を投じてバンコク東部に校舎を建設中で、初年度(07年度)は500人の入学を予定している。工学部、情報学部、経営学部のほか、工業管理修士課程も併設する。1月にバンコク、チェンマイなどタイ国内の8ケ所で入学試験が実施され、約1,000人が受験し、合格者を発表した。5年後の2012年度には学生数5,600人を予定している。一般教養科目、日本語講師などを含め、初年度に約30人の常勤タイ人教員を採用、次年度以降学生数の増加に対応して順次教員を増員する。希望者には、バンコク日本人商工会議所などが中心になって集めた奨学金をもとに支給する仕組みも整えた。

「今の日本には拝金主義がはびこっている」

   前田日・タイ経済協力会会長の出身会社である繊維大手の東レは、独自に科学振興財団を持っており、東南アジア諸国で技術者研修を進めているが、タイに進出した日系企業の間では即戦力となる優秀な技術者や課長クラスの管理職者が不足しており、タイの独自技術育成のねらいもあって、タイの元日本留学生を中心に「モノ作り大学」設立準備が進んでいた。泰日工業大学評議会委員長に就任したスポン・チャユッサハキット氏は、東京大学工学部電気科の卒業で同大学院工学部修士課程を修了し、海外技術者研修協会(AOTS)研修生として三菱電機で研修した。TPA会長のプラユーン・シオワッタナー氏は電気通信大学卒業、大阪大学大学院修士課程電機科を修了、AOTSで日立製作所、北辰電機で研修した。

   前田氏は「泰日工業大学設立に奮闘してくれた日本留学経験のあるタイ人は、昔の良い伝統を持つ日本の良い思い出がある。しかし今の日本は自分のためにしか働かない利己主義的な拝金主義がはびこっている。今の日本に良い思いを持っていただけるか、それが重要だ。しかしタイでは、新しい技術を作り、お国のために役立とうという意欲があふれている。そういう人々にわれわれはこたえる必要がある」と語る。タイではトヨタ自動車ホンダなど、自動車会社を中心に技術者ニーズが強く、設立大学も自動車工学科で初年度100人の学生を受け入れるが、2年度以降は生産工学科の学生も募集するなど、より幅広い人材ニーズにこたえ、国作りに協力する計画だ。


【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。
BSジャパン解説委員。
1943年東京生まれ。元日本経済新聞社編集委員、日本大学大学院客員教授、学習院大学非常勤講師。テレビ東京「ミームの冒険」、BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスターを務める。企業経営者に多くの知己があり、企業分析と人物評には特に定評がある。著書に「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)、「ゴーンさんの下で働きたいですか 」(日経ビジネス人文庫)など多数。


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