旧日本軍のいわゆる「従軍慰安婦」をめぐり、米下院で日本政府に謝罪を求める決議案が提案されている問題で、米国メディアの日本に対する風当たりが強くなっている。安倍首相の発言が「言い訳をしている」と取られていることもあるが、別の背景もありそうだ。それは北朝鮮問題を巡る日本のスタンスという見方だ。
安倍首相は、2007年3月5日の参議院予算委員会で
「官憲が家に押し入って誘拐するかのように連れ去ったという意味での(狭義の)強制性はなかった」
「決議案は客観的事実に基づいていない。決議があったからといって、我々が謝罪するということはない」
などと述べ、決議案を、事実上「黙殺」する考えを示した。これを境に、米メディアの日本批判が激化した。
慰安所の中で行われたのは、売春ではなく連続レイプ??
ロサンゼルス・タイムズは「天皇陛下が謝罪すべき」と主張
6日のニューヨーク・タイムズは「慰安ではない」と題した社説を掲載、
「その(慰安所)の中で行われていたのは、売春ではなく連続レイプだった」
と断定してみせた上で、
「日本が全面的に責任を受け入れることを迫っている国は、米国だけではない。韓国、中国も日本のあいまいな姿勢に長年憤っているのだ」
と、米中韓の「反日包囲網」があると主張、
「安倍首相は、傷ついた日本の国際的な評判を修復するよりも、あの恥ずべき行為すべてが、民間の営利活動だったと言い張る、巨大な自民党内右派にすり寄っているようだ」
と、非難している。同紙は8日にも、1面で大きく、シドニーで行われた元慰安婦らの抗議活動を報じている。
7日にはAP通信が、15歳の時から3年間にわたって日本軍に対して性的サービスを強いられたと語る女性を紹介する記事を配信、これをワシントン・ポストも掲載した。
同日ロサンゼルス・タイムズに掲載された社説はもっと過激で、
「過去について、日本と近隣の国民とを最も和解させ得る人物は、戦時下の昭和天皇の子息である明仁天皇」
とし、
「天皇はもう1歩前に進んで、家族(昭和天皇)の名において行われたすべての犯罪に対して、さらに力強い謝罪をすべき」
と主張した。
「(米国からすると)日本は非協力的に見える」
政府が言うように、この批判が「事実に基づいたものなのか」は議論があるが、「集中砲火」状態なのは間違いない。
この背景について、07年3月11日朝に放送されたフジテレビ系列の情報番組「報道2001」で、コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、このように述べている。
「(安倍首相の発言が)何となく弁明したがっている、という印象を(米国側に)与えている」
この点については、日本側も反論している。在米ロサンゼルス日本総領事館の兒玉和夫総領事は「日本は罪を償って生きている」いうタイトルの反論記事をロサンゼルス・タイムズ紙に寄稿、11日付けで掲載されている。記事中では、93年のいわゆる「河野談話」に加えて、95年に「アジア女性基金」を設立し「償い金」を提供するなどの対応を行っており、従来の政府方針を安倍首相も踏襲していることを強調している。
だが、同教授は、この問題には別の背景がある、とも解説している。
「(『拉致問題が第一』という)感情と外交戦略は別。核を(北朝鮮に)放棄させることが一番大事、という考え方がある」
「(米国からすると)日本は非協力的に見える」
と、6ヶ国協議の参加国間で、何を扱うかの優先順位に差がある、つまり、日本以外は「核が最優先」だと考えているのに対して、日本だけが「拉致問題」を最優先だと主張していることが問題の発端だ、と示唆したのだ。
米タイム誌は3月8日、ズバリこの点を指摘しており、安倍首相が北朝鮮に譲歩しなければ「北朝鮮への積極対応に転じた同盟国・米国との歩調にも乱れが生じる」とし指摘している。
3月19日からは第6回6ヶ国協議が始まる。日本はどうするか難しい選択を迫られる。