景気回復で人手不足感が強まるなか、パートや契約社員を正社員化する動きが広がっている。一時的にはコストアップという負担を抱えることになるが、優秀な人材を囲い込んで長期的なメリットを得たい考えだ。特にこの動きは小売り・流通業で目立つが、他の業界にも波及しそうだ。
「人材確保難しく、先手を打った」
景気回復で人手不足感が強まっている
総務省が2007年3月2日に発表した06年の労働力調査によると、正社員数は前年比37万人増の3,411万人で、初の増加に転じた。これまでは、企業は非正社員を中心に採用増を進めてきたが、これが正社員にも広がってきた形だ。
そんな中、カジュアル衣料品で有名なユニクロは07年3月5日、転居をともなう異動がない「地域限定正社員制度」を導入する、と発表した。現在約2万2,000人いる同社の非正社員(契約社員やアルバイト)のうち、約5,000人を正社員化する、というものだ。正社員並みの仕事量をこなす非正社員も少なくないが、店舗で働く正社員は全国を対象とした転勤を前提としており、転勤したくない従業員は、これまでは正社員になれなかった。今回の制度導入で、このような人たちにも正社員への道を開いた形だ。制度が導入されるのは4月1日から。
同社では、制度導入の背景として
「大型店を軸にした積極的な出店戦略を展開していく中で、人材の不足感は、今後より顕著になってくる事が予想され、人材の確保と育成の必要性も高まっておりました」
としており、優秀な人材の囲い込みを図りたい考えだ。
他にも多くの企業が、このような取り組みを進めている。アパレル大手の「ワールド」も06年11月、同社販売子会社の契約社員やパートタイマーの販売職約6,000人のうち、8割の約5,000人を、同子会社の正社員に登用している。中間決算発表の席上で同社は、
「人材確保はより難しくなるとみられ、先手を打った」
と、同様の狙いを明らかにしている。
製造業で正社員化進むのかは微妙
07年3月6日付けの日本経済新聞でも同様の動きを特集しており、高島屋、三越、西友、女性向けカジュアル衣料品の「ポイント」がアルバイトや契約社員の製造業で登用を進めていることを報じている。
このように見ていくと、正社員化を進めているのは、小売り・流通業が目立つ。これは、他の業界には波及していくのだろうか。これに否定的な見方をしているのが、「日刊ゲンダイ」。同紙は、人事コンサルタントの
「モノづくりの製造業ではそうはいかないでしょう」
という声を紹介、例として偽装請負が問題化したキヤノンの例を挙げている。同社の07年の中途採用は前年比37%増280人、新卒採用は15%増の930人の見通しである一方、派遣・請負社員の採用計画が派遣・請負社員の正社員化については未定なのだという(グループでの06年実績は430人)。これを「パート軽視」と解釈したのか、同紙では、以下のような悲観的な見方を紹介している。
「製造業はロボット化で作業工程を最小化しているので、パートはマニュアル通りに働けば十分という考えなんです」
確かに、流通・アパレル業ではパートを正社員化した後には「スーパーの売り場責任者」「即戦力の店長候補」などとして活躍が期待されている例が多い。製造業ではこのあたりが不透明、と見られているようだ。