国内で発売中の一冊の書籍をめぐって、米国の人権団体が出版社に抗議、書籍の営業を止めるように求めている。この本は「ユダヤ陰謀論」だ、というのが理由で、さらに広告を掲載した新聞社にも経緯を調査するように求めるなど、異例の事態を迎えている。この団体は、スポンサーに働きかけて圧力をかけ、いくつものマスコミを謝罪させるなど、かなりの「コワモテ」と知られている。
今回問題とされているのは、2007年2月に徳間書店が出版した「ニーチェは見抜いていた ユダヤ・キリスト教『世界支配』のカラクリ」という本。この書籍は米誌フォーブスの元アジア太平洋支局長・ベンジャミン・フルフォードさんと、ニーチェ研究家・適菜収さんの共著。2月18日の朝日新聞朝刊に掲載された広告には、こんなキャッチフレーズが掲載されている。
「騙されてはいけない!!米国がイスラムを叩く構造は十字軍と同じ。民主主義を隠れ蓑にした、この一神教の世界支配システム打破が急務だ!!」
徳間、朝日新聞社に「要求」
「サイモン・ウィーゼンタール・センター」のウェブサイトには、抗議を行った書籍の写真が大きく掲載されている
これに対して、米ロサンゼルスを本拠とするユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が噛みついた。2月20日(現地時間)、この本の出版を「反ユダヤ的な陰謀論の新たな流行を示すもので憂慮する」とする声明を発表したのだ。同センターのウェブサイトのトップページには、この本の写真が掲載され、声明文も目立つように表示されている。声明の中では、同書の
「ブッシュは65万人のイラク人を虐殺し、さらにイスラエルの過激派と協力して、中東を支配するために、全てのパレスチナ人を絶滅させようとしている」
「米軍は実はイスラエル軍だ」
といった記述を「陰謀論を主張しようとしている」として問題視。出版元の徳間書店には「このように、明らかにうそで、忌まわしい書物の営業をやめる」ように、広告を掲載した朝日新聞社には「なぜ、こんな非常識な本の広告を掲載したか、経緯を調査」するように、それぞれ求めている。
今回抗議を行った「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は、「ナチ・ハンター」の異名で知られ、第2次大戦でユダヤ人虐殺(ホロコースト)などに関与したナチス戦犯の追及を続けた国際活動家サイモン・ウィーゼンタール氏が1977年に設立。ホロコースト風化防止の活動や、逃亡を続ける戦犯の情報網を整備してきた。日本では、創価学会と組んで各地で「アンネ・フランクとホロコースト展」を開催してきたことで知られる。