オーストラリア人ジャーナリスト、ベン・ヒルズ氏が皇太子妃雅子さまについて書いた単行本「プリンセス・マサコ(Princess Masako)」をめぐって、外務省や宮内庁が著者や出版社に対して抗議を行い、その数日後、日本語版の出版中止が発表された。出版者側はその経緯を「事実誤認に対して、ヒルズ氏が謝罪に応じないため」としているが、ヒルズ氏側は「日本国民は本の内容を知る権利がある」「あからさまな言論の自由に対する攻撃だ」などと、一歩も引かない構えだ。
問題になっている「プリンセス・マサコ」は、東京に3年間特派員として駐在した経験もあるヒルズ氏が、雅子さまが抱える苦悩について描いた本で、2006年末に豪州で出版された。同書では、宮内庁高官が雅子さまに対して「女の子では不十分だから男の子をつくるように」と発言した、とされているほか、雅子様さまが不妊治療を受けたり、雅子さまの病名が「適応障害」ではなく「鬱病」である、といったことを強く示唆している。
この衝撃的な内容が波紋を呼び、07年2月13日には、外務省が「事実無根の内容が多数含まれ、皇室を侮辱している」として、著者と出版社に対して抗議の書簡を渡した、と発表した。
これに対してヒルズ氏は、J-CASTニュースでも既報のとおり、全く謝罪の意思がないことを明言していた。
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ヒルズ氏は「日本国民は、皇室で何が起こっているのかを知る権利がある」と主張
これを受けて、3月に刊行を予定していた、同書の日本語版が「お蔵入り」になる可能性が出てきた。刊行に向けて作業を進めてきた講談社が、2月16日、同書の出版中止を発表したのだ。翻訳作業中に原書に事実誤認が多数見つかり、ヒルズ氏の了解を得た上で再調査・修正を経て、日本語版の原稿はほぼ完成していたというが、ヒルズ氏の態度に講談社は「版元と著者との信頼関係を保つことはできない」と判断、出版中止に至ったという。
これに対して、ヒルズ氏はさらに反発を強めている。同氏は2月17日、AP通信に対して、講談社の決定に「驚き、落胆している」とした上で、「私たちはこれを、あからさまな、表現の自由に対する攻撃だとみなす」と答えている。さらに、日本政府を「他の先進国では全く受け入れられない検閲を実施し、講談社に(出版を止めるように)圧力をかけた」と非難。さらに、このように主張した。
「皆さんが私の本を嫌いか好きかは、気にしていません。ですが、自分で本を読んで、自分の考えを決める機会は与えられるべきです。日本国民は、皇室で何が起こっているのかを知る権利があります」
ヒルズ氏は、同様のコメントをAFP通信とロイター通信にも寄せ、講談社以外にも3つの出版社が著者に接触していることを明らかにしている。今後は、これらの出版社の動向に注目が集まると見られる。もっとも、ロイター通信は2月19日、今回の騒動について、こう冷ややかに評している。
「ヒルズ氏の本をめぐる騒動は、著者にひとつの良い結果をもたらした。現在この本は、アマゾンの日本版サイトAmazon.co.jpで、一番よく売れている洋書なのだ」