またファイル送信ソフト「ウィニー(Winny)」による情報流出事故が起こった。NHK関連会社所属の男性ディレクター(30)氏で、NHKの大型討論番組「日本の、これから」の制作に携わっていた。流出した情報には、番組の取材メモや台本のほか、行政とのかかわりなど、番組作りの舞台裏が、思わぬ形で明らかになった。
NHKの情報流出で、道庁の「威光」が明らかに…
2007年2月15日に、外部からNHKに通報があり、情報流出の事実が明らかになったという。翌16日には、夕刊紙「夕刊フジ」が「NHK若手ディレクター 仰天エロ日記」という見出しで流出内容を紹介した。同日、NHKも情報流出の事実を公表。発表によると、流出したのは取材依頼文や取材メモなどおよそ260件で、そのうち、名前やメールアドレス、電話番号などの130人分の個人情報が含まれていたという。その上で、
「このような事態になり、関係者の皆さまにご迷惑をおかけしたこと、視聴者の皆さまにご心配をおかけしたことを深くおわびいたします」
と謝罪した。
番組台本や、取材メモ、スタッフの名簿など流出
J-CASTニュース編集部が流出したファイルを開くと、番組制作の興味深い舞台裏が見えてきた。
流出させた当人は、NHKの関連会社「NHK情報ネットワーク」に所属、2月10日に放送されたNHKスペシャルの大型討論番組「日本の、これから~”団塊”大量退職へ」という番組の制作に携わっていた。19時30分~22時29分(途中15分間ニュースで中断)の約3時間にわたって、堺屋太一さんなどの有識者や団塊世代の市民ゲストを迎えて、団塊世代の今後について論ずる番組だった。
番組関連で流出したのは、通常はスタッフしか見られない番組台本や、取材メモ、スタッフの名簿など。これらの名簿の中には、有力アナウンサーのメールアドレスとケータイ番号も含まれていた。
さらに、取材メモからは、取材をする側・される側の様々な事情がかいま見える。番組ではVTRをきっかけに議論が進行するという仕組みになっていたが、番組中で流されたVTR5本のうち、氏は少なくとも2本の制作に携わっていた。そのうちの1本が、
「北海道伊達市には団塊世代の移住が相次いでいる。北海道庁も、資産を多く持っている団塊世代に注目、『移民政策』を推進している」
という内容で、伊達市の試みを紹介し、道庁担当者のインタビューも盛り込んでいる。VTRの中では、「移民が増えると、将来の医療費増が心配」という伊達市での声も紹介されている。だが、この声は、本来は伊達市以外から拾うはずだった。それが「道庁の威光」で変更せざるを得なくなったのだという。
当初の企画案にはこうあった。
「しかし80近い市町村がその(編注: 移住受け入れの)流れにのっていない。その一つA町。人口2,500人、高齢化率30%。現在は33床の病院が一つだけ。それを維持するだけでも町には負担。この上、高齢者増えて社会保障費増えたらやっていけない」
取材断念の理由は「道庁との関係が悪くなるのを恐れる」
ところが、放送が近づくにつれて、こんなメールが流れる。
「さて一昨日のことですがVTR4で伊達市のアンチテーゼとしてあげていたA市の取材が難しくなりました。理由は(1)北海道庁との関係性が悪くなるのを恐れる(2)3月に議会を控えてデリケートな時期で触ってほしくない(3)番組に出ることで団塊世代を受け入れてない町と受け取られることを恐れる、とのことでした(略) そこで残りの80の市町村にあたる中で出てきたのがB町です」(1/21)
「昨日B町の取材が難しいことが分かり、伊達市で団塊移住の光と影を描くことになりました。理由はほぼA町と一緒。道庁の威光、なかなか手強いです」(1/23)
取材メモを通して、「道庁の威光」が明らかになった形だ。
さらに、この時点で放送まで約2週間強。数ヶ月単位で制作すると言われる「Nスペ」にしては意外にタイトなスケジュールであることがわかる。
ちなみにこのディレクター氏、06年11月には「サイバー防御最前線」というタイトルで番組企画書を書き、冒頭には
「今、汚染を拡大するウィルスが『ボットネット』。感染させたパソコンに指令を出し、何千台もの集団で攻撃を加えるウィルスだ。感染パソコンは国内だけで推計50万台。意識の低いユーザーや、普段忘れられているパソコンを中心に感染が広がっている」
とある。
この他にも多数の取材メモや企画書を書いていたことが確認されており、仕事熱心だったのは間違いないようだ。しかし、残念ながら、企画書にある「意識の低いユーザー」とは、自身のことも指していたようだ。
NHKの広報部では、J-CASTニュースの取材に対して、今後の処遇について「(所属している子会社)NHK情報ネットワークの方で、厳正な処分がなされると聞いています」と話している。