「日産は今、危機の中にある」と日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、自ら経営の失敗を認めた。販売不振が続く状態にあって、日産がコミットメント(公約)の最大かつ最後の砦としていたのが利益率を達成すること。自動車メーカーでは高水準の営業利益率を誇っているが、それでも1999年のゴーン社長就任以来、7年目にして初めて通期の利益予想を下方修正した。瀕死の日産を成長路線へと乗せたことで生まれたゴーン神話が、完全崩壊したわけだ。
ゴーン社長は06年度第3四半期決算を発表した07年2月2日の夜、仏・パリ郊外のルノー本社からテレビ電話を使い、日産本社に集まったマスコミたちに業績不振のわけを説明したという。
06年度グローバル販売計画達成は不可能
新型車「ピノ」などを発売するも、大きな台数を稼げる訳ではない
だが期初に設定した06年度グローバル販売計画の373万台(前年同期比4.5%増)は、下方修正せずにいる。06年4~12月期のグローバル販売実績が250万4,000台(同5.7%減)。計画達成には、この1~3月期に122万6,000台(同34.0%増)以上の販売が必要だが、1月の米国販売は前年比8%の増加に止まった。06年度グローバル販売計画の達成は、まず不可能となった。
日産の最大市場はグローバル販売台数の30%程度を稼ぎ出す米国だ。その米国での販売は、06年10月から2桁台の成長率を示す予定だったが、計画は大きく狂った。ピックアップトラックやトラックベースのSUVなどの市場縮小を見抜けず、需要が高まった乗用車では旧型アルティマのリコール対応に手間取った。旧型車の在庫が増え、2ケタ成長の牽引車となるはずだった新型アルティマへの切り替えが遅れ、販売攻勢を仕掛ける時期を逸した。
さらにお膝元で販売台数の25%程度を占める日本市場は、06年度はじめから販売計画値が高すぎると指摘されていたように、回復の軌道に乗れない状況が続いている。年度販売計画は06年4月に84万6,000台(同0.5%増)と発表したが、2ヵ月後の6月にはゴーン社長が80万から84万6,000台と言い換え始め、国内の日産ディーラーは80万台(同5.0%減)を目標としてきた。その引き下げた数字でさえ、1~3月に30万2,000台(同12.7%増)の販売実績が必要だ。
年間75万台守れるか
06年秋から乗用車「スカイライン」やビジネスバン「AD/ADエキスパート」、軽乗用車「ピノ」といった新型車を発売してきたが、いずれも大きな台数を稼げる車種ではない。目標にできるだけ近付けようとしているが、今の日産の車種構成では年間75万台(同10.9%%減)を超えることも危ぶまれている。
それでも日産は、05~07年度の中期3ヵ年計画「日産バリューアップ」の目標値を変える気が無い。バリューアップの期間中、グローバル自動車業界でトップレベルの売上高営業利益率の維持と、3年間平均で投下資本利益率20%以上の確保、さらにバリューアップ期間終了後の08年度にグローバル販売420万台という3つのコミットメントの達成に向けて、自ら目標の旗を降ろすことはディーラーの意欲をそぎ、自滅に繋がると考えた。
07年度にグローバル市場で11車種の新型車を市場投入する計画は健在だ。この新車攻勢に加え、バリューアップの追加施策を講じることにした。ゴーン社長は「失敗は二度としない」と言明しているが、日産は海外生産比率が高いので、輸出比率が増えた国内の他メーカーのように、為替変動で円安の恩恵を得にくい構造にある。しかも依然として主力の日米市場の動向には不安がある。追加施策は4月に発表されるが、施策が的を射なければ、坂道を転がり続ける事態に発展する恐れがある。