大学生時代から博士課程まで「ラブホテル」をテーマに研究を続ける女性がいる。神戸学院大学大学院の金益見さん(27)だ。「どうやったらよりエロティックになるか、と工夫する心理が面白い」そうで、膨大な資料収集と地道なフィールドワークを行う姿勢が注目されている。
学部時代の卒論は、「ラブホテル」の変遷(江戸期の出合い茶屋から待合、連れ込み旅館、現代のラブホテルまで)や地域差、さらに自腹でラブホテルに1人で潜入したレポートも含まれているという。
回転ベッドはどうして誕生したか
修士、博士課程と研究を続けた。300軒以上のラブホテルに足を運び、経営者たちの話に耳を傾けてみた。
最近は、子供が自宅でセックスしても親が寛容なこと、少子化の影響で若者のラブホテル利用が減ったことなど、ラブホテルの経営は決して楽ではない。
「常に時代の影響を受けているラブホテルの変遷は知れば知るほどおもしろい」
金さんはこう話す。
例えば、ラブホテルに昔よくあった回転ベッド。元々健康器具として腰をマッサージするベッドから発展した。これに、ラブホテル経営者やベッドメーカーが着目した。
「ベッド自体を回転させたらどうだろう、鏡とセットにすれば自分たちの性行為も見られて、よりエロティックな雰囲気になるのではないか、とアイディアを出し合い、改良が進んだんです」
ラブホテルに携わる多くの人びとによって、設備や装置が発展していった一方で、彼らは常に後ろめたい思いを抱えながら過ごしてきた。金さんは今まで取り上げられてこなかった声や現象にも光をあてたいという。
出版の話も出ている
「ラブホテル」というテーマ設定は、卒論担当教員だった神戸学院大学水本教授との「話のついで」のようなところから決まったという。「トイレ」を専門に研究する教授は、「学問とはキワモノである」と常々話していたといい、教授自身が「ラブホテル」というテーマ設定をかなりプッシュしていたそうだ。
金さんは学部生だった当時(2002年)を振り返る。
きっかけは、ふと電車の中で見かけた中吊りの「とっておきラブホ」という情報誌の特集タイトルや、後輩から言われた「ラブホデートは普通にあること」という言葉。「ラブホテル」を卑猥で嫌なものと決め付けていたが、世代間でとらえ方の違いや地域差があるのを面白いと思った。
「卒論のテーマが決まった頃は、正直『いややなぁ』と思ってました。あの人ラブホに行きまくってるらしいよ、なんて学部内で後ろ指さされるし、親にも卒論のテーマは最後まで内緒でした」
教授の後押しもあって「愛の空間」の著書がある国際日本文化研究センター井上章一教授の元を訪れたり、国会図書館に何日も通ったりして膨大な資料を集めているうちに、「ラブホテル」研究にのめりこんでいったという。
しかし、若い女性だけにこんな悩みもある。
「(このテーマを続けていたら)嫁にいかれんかもしれん」
博士論文で取り上げた「ラブホテル」論が、本として出版される予定もあるそうだ。