有志が集まって作成する「同人誌」に掲載したマンガをきっかけに、プロ漫画家への道を歩んでいくという例も少なくない。だが、同人誌の中には、既存のマンガのキャラクターや舞台設定を借用しているものも多く、著作者の許可を受けないと、法的には「著作権侵害」だ。小規模ならば黙認されてきた同人誌だが、「大ヒット作」が生まれたために版元も「厳格に対処する」ことを表明。同人誌の文化と著作権の問題をどのように折り合いを付けるかが、今後の課題として浮上している。
産経新聞の連載「知はうごく」が注目を集めている。著作権の周辺事情について特集しており、例えば、漫画家の松本零士さんが、著作権の保護期間を50年から70年に延長しようとする取り組みを始めた経緯などを紹介している。
怠け者のはずののび太が猛勉強して科学者になる
「コミケ」が開かれる東京ビッグサイト。開催時には全国から約40万人が集まる
特に注目を集めているのが、1月31日に掲載された内容だ。小規模の流通であれば版元も黙認してきた同人誌だが、「大ヒット作」が出てしまい、ついに目をつぶってはいられなくなった、という内容だ。
渦中にあるのは、「ドラえもん最終話」というタイトルの漫画本。日本人なら誰でも知っていると言っても良いほどの有名マンガ「ドラえもん」のパロディーだ。ストーリーは、「ドラえもんの最終回」と称するチェーンメールが90年代末から流行、半ば「都市伝説」と化していたものに対してアレンジを加えたものだ。
そのあらすじは、
「ある日突然、ドラえもんが故障して動かなくなる。ドラえもんを再び動かそうと、怠け者のはずののび太が猛勉強して科学者になる。そして、未来の世界でドラえもんを作ったのは、実は大人になったのびた君だったことが分かる―」
というもの。
05年末に、他の同人誌と同様にひっそりと発売されたが、感動的なストーリーと、同人誌としては質が高かったこともあって、ネット上で話題になり、ストーリーをまとめた「フラッシュ」も制作された。その結果、出荷部数は、同人誌としては異例の1万5,500部に達した。
実は同人誌には、「2次創作」と呼ばれる、作品のキャラクターなどを借用して、独自の作品を作る手法が多く用いられている。これを原作の著作者に無断で行うことは、法的には著作権侵害となるが、この「ドラえもん最終話」は、ドラえもんの版権を持つ、小学館の許諾を受けていなかったのだ。
小学館は「著作権侵害」と判断、作者に販売中止を求める
これを受けて、小学館はこれを「著作権侵害」と判断、06年中に、マンガの作者に販売中止を求めた。この件について、小学館知的財産管理課はJ-CASTニュースの取材に対して
「この件については、現在交渉中で、結論も出ておりませんので、詳細についてはコメントできません」
としながらも、
「今後、著作権侵害については、厳格に対処していきます」
との原則を強調した。
そんな「同人誌」の愛好家が一同に会するのが、「コミックマーケット(コミケ)」だ。年に2回、東京ビッグサイトで開催され、全国から約40万人が集まる。同人誌愛好家の側は、この問題をどう受け止めているのだろうか。
ボランティアスタッフとしてコミケにかかわる、ある大学生は、J-CASTニュースに対してこう明かす。
「コミケは30年ほどの歴史がありますが、一般に有名になってきたのはここ10年ぐらい。これまでは、この(著作権)問題に、きちんと向き合っていなかった、という面はあると思います。そろそろこの問題が表面化してくるのではないか、とうすうすは感じていました。今後、取り組みを強化していく必要があると思います」
その一方で、コミケという場で創作活動を経験し、プロ漫画家に成長した人も多い、というのも事実。2次創作に対してプレッシャーが強くなりすぎると、漫画家が育つ芽を摘むことになり、業界の人材が枯渇する、という懸念もある。
そうは言っても、法律を守らないままで「創作活動」の場を守ることを主張するのは本末転倒だ。このスタッフは、こう続ける。
「コミケには、出版社などの『企業ブース』も増えてきており、コミケの来場者は『企業と同人誌の両方を目的にする』というケースも増えてきています。企業からすればコミケという場を通して集客できるという面もありますし、その見返りという訳ではありませんが、自社が権利を持つマンガなどについて、2次創作を許可する企業も増えています。このようにして、何とか同人誌と企業とが歩み寄って、同人誌が社会システムの中で認められるようになっていけば良いと思います」