約10年前に社会を揺るがした日興証券の利益供与事件で有罪判決を受けた同社の元常務(57)が、日興コーディアルグループの嘱託社員として有罪確定後も現在まで約9年間雇用され、年間約2,000万円もの報酬を受け取っていたことが明らかになった。06年末に発覚した05年3月期の有価証券報告書の虚偽記載問題で引責辞任した金子昌資前会長、有村純一前社長の「負の遺産」とも言え、日興グループの事件当時と変わらぬ独善的・閉鎖的な体質が浮かび上がる。
「秘密ではない」と強弁
この元常務は、当時の自民党衆院議員で後に自殺した新井将敬氏や総会屋の小池隆一氏に不正な利益を供与したとして、証券取引法違反(利益追加・損失補てん)と商法違反(利益供与)に問われ、98年9月に懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けた。ところが、その有罪確定後も、証券業務の事務処理を行う関連会社の「日興ビジネスシステムズ」嘱託社員として、現在まで働いているというから驚きだ。
有罪の元常務をその後も平然として雇用していたことについて、日興グルー プは「国会答弁で明らかにしているのだから、元常務の雇用は秘密ではなく、公然の事実だった。カラ雇用ではなく、勤務の実態もある」と 正当化している。その根拠に挙げているのが、元常務が98年1月、衆院予算委員会の参考人質疑に当時の金子昌資社長とともに出席し、「役員を退任したが、日興証券の嘱託の立場にあり、給与も出ている」と答弁していたことだ。
だが、この元常務の国会答弁は有罪判決を受ける前のことで、有罪確定後も雇用していたとなると話の次元がまったく異なってくる。道義的責任、順法精神の問題を理解していないと言われても仕方がないだろう。
「負の遺産を継続していた」と金融担当相
元常務の雇用について山本有二金融担当大臣は1月26日の閣議後会見で、「長きにわたって負の遺産を継続していたという会社の体質が問われなければならないと思う」と批判したのは当然だ。
問題の指摘を受け、桑島正治社長は金子前会長ら前経営陣が元常務を雇用した経緯について調べを進めており、元常務と雇用契約を断ち切ることを検討しているという。
当時の利益供与事件では、元常務とともに元副社長2人と元総務部長の3氏も有罪判決を受けている。この3氏について日興グループは、元常務と異なり関連会社での雇用はないと説明している。だが、それ以上の具体的な情報の開示も証拠もない。新体制となっても新たな問題がどこから浮上して来てもおかしくないのが、今日の日興グループの実態のようだ。