NHK受信料の未払いに端を発した受信料義務化問題の行方が混沌としてきた。総務省は2007年1月25日招集の通常国会に提出する放送法改正案で、受信料の支払い義務を明記する準備を進めている。だが、NHKの不祥事が一向に収まらず、義務化には国民の猛反発が予想される。この反発を和らげようと、菅義偉総務相はNHKに対し、受信料の2割値下げを要請すると明言した。これに対して橋本元一NHK会長は「値下げは困難だ」との姿勢を崩していない。
受信料の義務化は本当に必要なのかという本質的な議論を置き去りにしたまま、「値下げとセットなら義務化できる」のではとの思惑だけが先行している。
受信料の義務化と値下げはセット
受信料義務化の論議は迷走しそうだ
橋本会長は1月17日、08年度のNHK予算を菅総務相に提出した。この席で菅総務相は、直接的な値下げ要請こそしなかったものの、「受信料の義務化と値下げはセット」との意向を示した。橋本会長は「放送の充実などの中で見極めたい」と、受信料値下げについての回答は避けたようだ。
総務省には「受信料の収納率は7割だ。この7割の視聴者に、払わない3割の人に対する不公平感が高まっている。放置すれば、公共放送と受信料制度が崩壊する」との危機感がある。そこで「義務化だけでは国民は許さない。増収分は国民に還元すべきだ」と菅総務相が迫る。
義務化すると収納率が8割以上に向上し、1,000億円程度の増収が数年後に見込めるとの試算が根拠だ。「後は、組織のスリム化などNHK自身の経営改革で2割値下げは可能。無理なことは言ってない」という。
NHKの方は義務化には賛同するものの、値下げは簡単には受け入れられない。義務化で不払い者が減ったとして、どのくらい受信料収入か増えるかが読み切れないからだ。もっとも、「難しい」と拒否の姿勢しか示さないことで、逆に「値下げを!」と菅総務相に強く迫られる素地をつくりだしたことは否めない。日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日会長)も07年1月18日の会見で、 「(支払件数が)どれだけ増えたら値下げできると、メッセージを出せばいい」と、値下げできる条件をNHK側は示すべきだと述べている。