新聞記者、週刊誌の編集長、テレビの世界でも活躍した鳥越俊太郎さんが、「市民記者」中心の「オーマイニュース」というインターネットニュースの編集長になった。なぜ、ネットの世界に、という素朴な疑問、そして市民記者の将来の可能性などについて聞いた。
(聞き手: J-CASTニュース編集長 大森千明)
鳥越俊太郎・オーマイニュース編集長(左)と大森千明・J-CASTニュース編集長(右)
鳥越: 「市民記者」という新しい可能性を僕なりに感じたからなんですよ。今までのマスコミというのは一方的な大量情報伝達だったじゃないですか。情報を自分たちで集めて加工して流して、読者とか視聴者はひたすら受け止めるだけ。でも、インターネットが普及してきて、ネットユーザーはいろいろ情報発信を始めたわけだよね。で、メディア批判も盛んになって(笑い)、僕はね、ネットユーザーがメディア批判だけではなくて、一市民として持っている情報をね、有効に働かせることができないかと前から思っていたんですよ。
新聞やテレビなどの既存メディアは点と点を繋いでいるだけで、事件や、緩やかな日本で起きている現象を掴みきれているのかどうかがわからない。それなら市民記者を集めて網の目状のネットワーキングができあがれば、報道も変わっていくんじゃないかと。まぁ、それがうまくいくのかどうか。まだ始まったばかりなのでわかりませんけどね。でも多少そういう萌芽は感じてます。
大森: 正直に申し上げて、市民記者というのはいろいろと大変かなぁ、という感じがします。ウチはプロの技を見せる、が売りです。記者経験が無かった若い社員もやっているんですけれどもね。
鳥越: 韓国で4万4千人ぐらいの市民記者がいて、それくらいのボリュームは韓国ではあるわけです。韓国と日本ではメディアの事情、社会状況が違うから同じように論じられないんだけれど、日本人の知的レベル、教養、ネットの普及度とかを見れば、日本の市民が市民記者になってくれる可能性が高い。と僕は思う。でもまだ、オーマイニュースは日本では知られていないし、まだ存在感が無い。
大森: えっ、ありますよ。僕は知られているメディアだと思うなぁ。
鳥越: でもね、06年10月頃に慶応大学の三田祭に招かれたんですが、そこで「慶大生100人に聞きました」で、オーマイニュースを知っている学生は100人中、29人だったんです。慶応の学生ですら30%ですから一般国民は10%も知らないはず。だからもう少し認知度を高めて、サラリーマン、農家でもなんでもいいんですが、いろんな仕事をしている人に市民記者になってほしいと。
問題あるが、圧倒的に新聞の信頼性は高い
大森: 最近感じるんですが、普通の人がマスコミに不信感を持ってきています。それが一番怖い。昔は新聞記事に文句を言ってくるのって、意識の高い人でした。今は一般の人まで深読みしてウラからというか、「記者クラブで遊んでいるんですって!?」「どうせ何もしないで記事をかいているんでしょう」「大企業からカネをもらっているんじゃないですか」など言ったり、ネットの掲示板に書いたりしている。
鳥越: それは当然ある。ただ、そんなに悲観的になる必要はないと思うんですよ。情報の信頼性は新聞が一番。テレビではない。テレビの人たちもね、新聞を読み情報を確かめて取材に行くでしょ。もちろん、新聞に頼らずに独自にね、人脈とか取材ソースを持っていてそれをテレビで流している人達も僅かながらいますよ。
僕のやっていた「ザ・スクープ」も、殆ど新聞に頼らなかったからこそ桶川事件を追及し、最終的に警察が謝罪した。確かに新聞の世界に問題はいっぱいありますよ。しかし、圧倒的に新聞の信頼性は高いわけです。ただ、若い人が新聞を読んでいない。僕は大学でも教えているわけですが、500人くらいの学生がいて、マスコミ専攻なのに、新聞を読んでいるのは2~3割ですよ。じゃぁ、ニュースは何で知るのかと訊ねたら、テレビでという学生が一番多かった。それくらい若者の新聞離れが進んでいて、新聞離だけでなく雑誌、小説などの活字離れが相当起きている。インターネットに吸収されていることも一因と感じます。
(続く)
【鳥越俊太郎プロフィール】
1940年生まれ、福岡県出身。65年京都大学文学部国史学科卒業。同年毎日新聞入社。社会部、外信部(テヘラン特派員)を経て、88年「サンデー毎日」編集長。89年同社を退職し同年10月から報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターを務めるなどテレビでも活躍。06年5月に「オーマイニュース」編集長就任。
【大森千明】
1971年に朝日新聞社入社。経済部畑を歩み、「アエラ」編集長、「週刊朝日」編集長などを務める。2006年1月に朝日新聞を退社し、ジェイ・キャストに入社。06年7月からJ-CASTニュース編集長。