リニューアルした週刊誌「週刊現代」に「目玉」として掲載された記事をめぐり、波紋が広がっている。記事では、北朝鮮による拉致被害者である蓮池薫さんが、日本人を拉致するために日本に戻ってきていた、と報じている。これに対して政府からは抗議文が寄せられたほか、他の週刊誌からは「怪しいスクープ」とかみつかれている。
「スクープ記事」を掲載した週刊現代(左)と、それに疑問を呈する週刊新潮(右)
話題になっているのは、首都圏では2006年12月25日に発売された「週刊現代」の07年1月6・13日合併号。「新装刊」として、デザインを一新したほか、表紙と巻頭グラビアページには、結婚が間近と言われる女優の藤原紀香さんが起用されている。記事についても少なくとも3本の記事の見出しに「スクープ」という文字が躍っており、リニューアルには、かなりの気合いを入れたことがうかがわれる。
「北朝鮮に連れて行く」と男がすごむ
今回問題になったのは、「スクープ」のうちの1本である「蓮池薫さんは私を拉致しようと日本に上陸していた」という、5ページにわたる記事。この記事の概要は、ざっとこうだ。
この記事は、大学在籍中に社会主義に傾倒、「社会主義労働者党」を結成し、参院選にも出馬経験のあるという、元小学校教員の横井邦彦さんの証言をもとに構成されている。それによると、1986年3月18日、当時勤務していた小学校で放送用具の後片付けをしていた横井さんに対して男が、「横井先生」と、突然声をかけた。そして、自分は北朝鮮から拉致されたことを明かした上で、北朝鮮で送った大学生活の様子を話す。北朝鮮には100人以上の日本人がいるとし、横井さんが左翼活動の世界では名が知れていたことから
「われわれは、100人もの日本人をまとめる日本人の指導者が必要なのです。ぜひ私と一緒に北朝鮮に渡り、あなたに彼らの指導をお願いしたい」
と話したという。それを横井さんが断ると、男の態度は豹変、
「あなたを拉致してでも北朝鮮に連れて行く」
とすごんだが、横井さんが
「国政選挙の候補予定者が突然失踪したら、日本の警察が黙っていない」
と応じたところ、結局は拉致されることなく、事なきを得たという。
蓮池さんが日本に戻ってきたときに、この男が蓮池さんだと気がついたという。
政府の拉致問題対策本部は12月25日、記事に対して「全くの事実無根だ」とする文書を「週刊現代」発行元の講談社に送付した。蓮池さん自身も「荒唐無稽な作り話」と、抗議文を送付した。
「週刊新潮」は「いわく付きの人物の証言だ」
翌12月26日発売の「週刊新潮」1月4・11日新年特大号では「蓮池薫さんをアキレさせた『怪しいスクープ』」という記事を、ご丁寧にも「週刊現代」の記事の写真付きで掲載している。記事には蓮池薫さんの兄・透さんが登場し、週刊現代の記事を「全部デタラメ」と断じている。週刊現代の記事で証言していた横井さんについては「彼はこの話をあちこちに売り込んでいます。読売や日テレからは『怪しいから相手にされなかった』と聞きました」と、「いわく付き」の人物だと主張している。
これを受けて、J-CASTニュースでは、週刊現代編集部に対して、横井さんの証言を信用できると判断した経緯などについて問い合わせたところ、加藤晴之編集長名(12月25日付け)で、以下のコメントを寄せた。
「当該記事は、日本人拉致被害者までも対日工作員に仕立て上げていた可能性のある北朝鮮を非難し、拉致問題の真の解決を図るために、いま一度、蓮池薫さんの証言を検証する必要性を提起したものです。記事中の証言を、さまざまな角度から精査し、その結果、掲載に至ったものです」
真相は不明だが、仮に証言者が言うようなことがあったとしても、問題の人物が蓮池さん本人かどうか、については、今のところ説得力に乏しい、といったところだろう。