IP電話の近未来通信(東京都中央区、石井優社長)が、虚偽の説明で投資家から資金をだまし取っていた疑いが強まり、警視庁が2006年12月4日、同社本社や支店などを詐欺容疑で家宅捜索した。警視庁捜査2課には捜査本部が11日に設置されている。当初から詐欺が疑われた今回の事件で、通信事業を所管する総務省の対応が後手に回ったことで、05年10月の通信ベンチャー「平成電電」の経営破たんに続き、総務省の問題企業をかぎ分ける情報収集能力や、事後チェックの甘さが批判の的になっている。
「国内3分30円」では勝負にならないのは明らか
総務省のチェックの甘さが批判をあびている
「どうしてあんな宣伝に引っかかるんですかね…」。大手通信会社のある幹部は、信じられないという表情だ。
近未来通信のIP電話サービス「スーパーネット」は、「日本国内なら全国一律、時間帯に関係なく1分10円」。NTT東日本のIP電話「ひかり電話」の3分8円など、多くの通信事業者がIP電話をほぼ同水準で提供する中で、近未来通信の「国内3分30円」では勝負にならないのは明らか。IP電話に必要な中継局サーバの設置費用を負担するオーナーになれば、通話料を還元するとして投資家を募ったが、配当を払うのは事実上不可能だと容易に想像がつく。よく調べずに出資してしまった投資家を「自己責任」と突き放すことはできるが、こうした詐欺が疑われる企業を長期間チェクできず、放置した総務省の姿勢には疑問が残る。
「通信産業の規制緩和はメリットがあったが、あんな事業者を認めていること自体が問題」と、別の通信会社幹部は総務省の対応を厳しく批判する。「石井優社長は宝石や毛皮販売業者として起業し、あっという間に情報通信に乗り込んできた。近未来通信の前身の新日本通信を立ち上げた時点で、業界では疑惑の眼差しで見られていた」と言う。
通信事業は1985年から規制緩和が進み、04年の電気通信事業法の法改正では、自前の通信回線設備をもたない近未来通信のような事業者は、所在地と事業内容を届けるだけで参入できる。財務諸表も届出事業者は提出しなくていい。今では約1万4,000社が通信事業に参入している。
通信事業の実態はほとんどなかった
サーバーオーナー制度で資金を集める近未来通信の手法には、疑問の声が早くから出ており、06年8月には東京国税局が05年7月期に約1億7,000万円の所得隠しを指摘し、同社の不可解な事業の一端が表面化した。しかし、総務省が近未来通信に事業内容の報告を求めたのが10月、立ち入り検査は11月下旬だ。ようやく通信用サーバ2,466台のうち稼動しているのは7台だけで、05年7月期の売上高約181億円のうち通信料収入は約3億円しかないことが判明し、通信事業の実態はほとんどなかったことがわかった。
総務省は「利用者からの苦情がなかった」と言うが、そもそも契約者がほとんどいない。通信料収入の大半はプリペイドカードの売り上げで、利用者は外国人が主で、苦情が出にくい仕掛けだ。「もっと早く総務省は調査ができたはず。昨年の平成電電に続き、立て続けに起きた通信事業者の破綻劇を黙認した総務省の行政責任は問われないのか」との声は通信業界にくすぶる。
今回のトラブルを教訓に総務省は、業務改善命令が出せる場合を「電気通信事業の健全な発展を阻害する場合」などと加え、立ち入り検査もやりやすくする電気通信事業法改正案を次期通常国会に提出するが、遅きに失したとの批判は免れそうもない。