防衛庁を「省」に格上げする法案が2006年11月30日に衆議院を通過した。与党のほか、野党第1党の民主党の賛成多数で可決された。今国会での成立は確実で、07年1月には「防衛省」が成立する。法案に反対したのは社民党と共産党だけ。一方、新聞各紙に目を向けると、明確に「反対」を表明したのは朝日新聞のみ。つまり、社民・共産・朝日だけが、防衛庁の「省」昇格に反対している、というわけだ。
06年11月30日付朝日新聞は「防衛『省』 改めて昇格に反対する」と題した社説を掲載。詩人長田弘さんの「不戦60年」という言葉を引き合いに出し、次のように述べている。
「省になってもこれまでと実質的な違いはないと、政府・与党は言う。自衛隊員が誇りを持てる。諸外国も省の位置づけだ。名前が変わったからといって、戦前のような軍国主義が復活するわけではない。それはそうだろう。だが、問われているのは私たちの決意であり、そうありたいと願う戦後日本の姿である。古びたり、時代に合わなくなったりする問題ではないはずだ」
「省になることで、軍事的なものがぐっと前に出てくる」?
省昇格に朝日新聞だけが「反対」
さらに、「省になることで、軍事的なものがぐっと前に出てくることはないのか。そんな心配もある」とした上で、日本が敗戦に至った歴史を反省して、「新しい平和の道」を選んだことを強調。そして、
「その重みを考えると、あたかも古い上着を取り替えるようなわけにはいかない」
と締めくくる。
これに対し、新聞各紙の社説はむしろ「省」への昇格を評価する姿勢を示しており、朝日とは対照的だ。
06年12月1日付け毎日新聞は「『庁』であった重い理由を忘れてはならない」としながらも、「北朝鮮の核実験など安全保障の重要性も増している。国際社会からの自衛隊の活動に対する要請も増え、その評価も高まっている時だけに、私たちも省昇格は時代の流れだと考える」と前向きに評価。産経新聞は「超党派の合意を評価する」と題し、「国の根幹である安全保障政策に関し、党派を超えた合意が形成されたことを高く評価したい」としている。
「これまで対立してきたのがおかしな話だった」
そして、読売新聞は「当然だ」としている。
「国の安全保障にかかわる重要法案で、これまで対立してきたのがおかしな話だった。防衛庁の省昇格法案は、池田内閣時代の1964年に閣議決定されたことがある。それが『庁』にとどまったのは、冷戦時代の保革対決の下で、旧社会党など左派勢力が、『非武装中立』を掲げて国民の安全を守る防衛を不当に軽視してきたからだ」
さらに読売は次のように述べる。
「現実を直視し、防衛庁と自衛隊を時代に合う組織と位置づけるべきだとする立場に立てば、『省』とするのは当然だ」
朝日の社説はいまのところ、ネット上でも表立って話題にはなっていない。しかし、一部のブログでは次のように「評価」されている。
「これではまるで、精神論で戦争に勝とうとしたのと同じではないか」「盟友毎日にまで裏切られ主要紙で完全に孤立してしまった朝日の悲哀がにじみ出ており、モノの哀れをさそうほどなんであります」