クジラ救出作戦に100万ドル以上の費用
冷戦がまだ終わっていない1988年。10月6日、米国アラスカ州北端のポイント・バロー付近の、海と6キロも離れた氷の裂け目でコククジラ3頭が身動きが取れなくなっているのを、住民が発見した。自然保護団体や政府機関が救助活動に乗り出し、その様子は朝から晩まで全米のテレビで「実況中継」され、レーガン大統領も激励の電話をかけた。21日には1頭が姿を消した(おそらく死んでしまった)が、残り2頭の行方の注目が集まった。25日になって、国務省の要請で、現場近くにいたソ連の2隻の砕氷船が到着、砕氷を開始した。そのかいあって、26日には合計8キロに及ぶ水路が完成し、クジラ2頭は発見から20日ぶりに広い海に泳ぎ去った。当時のNHKニュースは「この救出作戦にはしめて100万ドル以上の費用がかかったものとみられています」と伝えている。
この熱狂ぶりには、動物愛護団体から
「ソ連は年間200頭もコククジラを捕獲しているのに、今回は2頭のクジラを救うために砕氷船を出したことだけが脚光をあびている」
と冷ややかな声も出たが、こんな声にかき消されてしまったようだ。
「そのくらいの費用、自然保護の広報費用に換算すれば問題ではない」
「そこに苦しんでいる同じほ乳類の仲間がいる。助けたいと思うのが人情だ」
「このクジラたちは『アメリカの心に銛(もり)を打ち込んだ』のだ」
記事冒頭で紹介した勝谷さんの日記は、こんな1文で終わる。
「昨日(編注: 22日)は確かにニュースが少なかった。しかしそういう時こそ虐めの問題などを深堀りして報じるのがメディアの務めではないのか。犬一匹と子供たちの命のどちらが重いのか頭を冷やして考えろ」
だが、88年当時の「アエラ」は、こんな見出しでこの騒動を報じている。
「米大統領選かすませたコククジラ救出大作戦」
つまり、大統領選挙ほどの大ニュースを脇に押しやってしまうほどのインパクトがあったということで、ニュースが多い日でも「動物救助騒動」は話題として取り上げられる、ということだ。