いじめによる自殺や「自殺予告」が相次ぐなか、マスコミの自殺報道のあり方に疑問の声が上がっている。自殺報道がかえって自殺の連鎖反応(群発自殺)を呼ぶのではないかというのだ。世界保健機構(WHO)は、「群発自殺」を防ぐための報道のガイドラインを示しているが、実際の報道はこれを逸脱している例が少なくない。
WHOは2000年に、「自殺を防ぐために マスコミへの手引き(PREVENTING SUICIDE A RESOURCE FOR MEDIA PROFESSIONALS)」と題された、群発自殺を防ぐための報道のガイドラインをまとめている。それによれば、実際に起きた自殺についての新聞・テレビの報道が自殺の増加と十分に結びつくことを示唆する十分な証拠がある、という。
「写真や遺書を公表しない」は原則だ
WHOの自殺報道への勧告。日本のマスコミは意識しているか
さらにWHOは自殺報道について次の原則を挙げている。
●写真や遺書を公表しない
●自殺の方法について詳細に報道しない
●原因を単純化して報じない
●自殺を美化したりセンセーショナルに報じない
●宗教的・文化的な固定観念を用いない
●自殺を責めない
日本のマスコミが報道していることばかり、という気がしなくもない。
実際にWHOのガイドラインを各報道機関は番組制作に当たって、なんらかのかたちで尊重しているのだろうかというと、「内規」という理由でそれについては明らかにできないようだ。
TBS広報はJ-CASTニュースの取材に対し、
「(自殺報道についての)内規はあるが、公表できない。各番組で、ケースバイケースで(その内規に)応じていると思う」
と答えたものの、WHOのガイドラインをどこまで適用しているかは答えてもらえなかった。
自殺した生徒の遺書をナレーターが感情をこめて読み上げる
またテレビ朝日広報部も、「(WHOのガイドラインは)参考にしているが、内容に関わることは社内規定なので言えない」としている。
しかし、テレビでは、遺書を公表し、自殺の手段や場所などが報じられる上に、バックグラウンドミュージックを用いて、「いじめによる自殺」を報じている。
実際に、福岡県の三輪中学校で起きた男子生徒の自殺について報じたある番組は、自殺した生徒の遺書をナレーターが感情をこめて読み上げ、さらに、いじめの発端となったとされる教師に遺族が「お前が笑顔をなくしたったい!」「返してくれよ!」と叱責する場面が報道された。そして、自殺場所と自殺手段について明確に報じている番組もある。
WHOが示したガイドラインから大きくはずれた報道が現実になされているというのが現状だ。
さらに、自殺した生徒の教師、教育委員会にひたすら責任を追及する報道に警鐘を鳴らす者もいる。民主党の山本孝史参議院議員は、06年11月2日の参議院厚生労働委員会で、WHOのガイドラインを踏まえたうえで、マスコミの自殺報道について次のように述べた。
「だれが責任者なんだという、教育委員会が悪いのか、学校の先生が悪いのかという形(の報道)は何も生み出さない。結局その死ぬという手段があるんだということを子供たちに教えてしまっているだけの話になる。それは非常にまずい」
「原因を単純化して報じない」を守っていない、ということだ。
「NEWS23」は報道に慎重な姿勢
一方で、自殺報道に慎重な姿勢を示す番組もある。ネット上では「みのもんたの『朝ズバッ!』を婉曲批判」とまで揶揄された、TBSの報道番組「NEWS23」での筑紫哲也氏の発言がそれである。
「私どもの番組をよくご覧いただいている方は、子供のいじめと自殺の問題を私たちが微に入り細に入りお伝えしていないことにお気づきだと思います。社会的に大いに関心のあるテーマであることは分かっておりますし、起きたことをきちんと伝えなければ報道の役目を果たせませんが、(中略)しかし、一方で大変悩ましいのは、自殺というのは伝えようによっては非常に連鎖反応を起こしやすいということであります」
文部科学省は自殺報道についてどのように考えているのだろうか。同省児童生徒課は、マスコミの自殺報道と自殺の連鎖について次のように述べる。
「メディアが子供に与える影響は大きいと思われる。しかし、表現の自由も尊重しなくてはいけない。メディア側が子供に与える影響を考慮する必要がある」
文部科学省もマスコミに対して報道の自粛を迫るわけにもいかず、記者会見でのやりとりで「それなりの働きかけはしている」とするにとどまっている。