東京証券取引所が毎月1回、定例で行っている社長の記者会見を06年11月から1時間半繰り上げ、午後2時スタートにする。これまでは慣習的に、株式市場の取引時間(立会い)が終了する午後3時以降(10月までは午後3時半)に会見していたが、「東証として、上場企業に重要な情報が発生した場合、なるべく早く、立会い時間中であっても開示すべきだと言っている。上場企業にお願いする以上は、具体的な態度で示そうということで、午後2時からに決めた」(西室泰三社長)という。
原則として24時間、365日、いつでも発表できる
東証での記者会見は午後3時前でも可能だ
東証は8年前の1998年から、企業の経営にかかわる重要な情報が発生した場合、投資家に速やかに知らせることが必要だとして、立会い時間中であっても情報開示するよう上場企業に求めてきた。適時開示については、東証のホームページで休日、夜間を問わず、原則として24時間、365日、いつでも発表する体制がとられている。
ところが、西室社長によれば、「どうも社会常識的にというか、いろんな方に伺ってみると、これまでの40~50年間、東証に上場している会社にとっては、重要事項の発表というのは、立会いが終わってから、つまり午後3時を過ぎないと重要事項は発表しないよという習慣が、ずっと日本の会社の中で根付いてしまっているようだ」という。
西室社長の指摘は、主として国内の主要企業や業界団体などの記者会見を指している。例えば、日本経団連会長はじめ、全国銀行協会会長、生命保険協会会長、日本証券業協会会長など主要な経済・業界団体の定例会見は、みな午後3時以降に開かれている。一般企業にしても、ネガティブな情報であればあるほど、株価への影響を考慮し、週末金曜日の後場終了の後に発表するのが、日本企業の”常識”になっている。
重要事項の発表は後場が閉まった後?
ある時、日本経団連の評議員会議長でもある西室社長が、日本経団連の前会長の奥田碩・トヨタ自動車相談役、日本経団連会長の御手洗冨士夫・キヤノン会長と酒席を共にした際、適時開示が話題になったという。西室氏が「午後3時前でも企業は記者会見できるんだ」という話を持ち出すと、奥田、御手洗両氏とも目を丸くして、「えっ、重要事項は後場が閉まった後にするんじゃないの?」と、不思議な顔をしたという。日本を代表する国際企業のトップでさえも、適時開示の意味を理解していなかったことに、西室社長はショックを受けたという。もっとも、当の西室氏も、東証会長に招聘される前の東芝時代、午後3時前に記者会見を開いていたのか、怪しい限り。
いずれにせよ、立会い時間中であっても、重要事項の情報発信が必要だとして、東証が11月から率先して記者会見を午後2時から開くことになる。ニューヨーク証券取引所との資本提携協議など、新聞紙上で重要事項をスクープされっぱなしの東証が、重要な情報をどこまで進んで発信できるのか、東証自身の株式上場もにらみ、真価が問われることになる。