社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の許諾を得ずに、同協会が著作権を管理する曲を自身が営業するスナックで生演奏していた疑いで、東京都練馬区の飲食店経営者(73)が逮捕された。著作権法違反の容疑で逮捕に至るケースは極めて異例だ。JASRACは「それ以外に手段がなかった」としているが、ネット上では刑事告訴したJASRACへの批判の声が上がっている。
警視庁によると、この男は2006年8月、9月にJASRACが著作権を管理するビートルズの「ヒアゼアアンドエブリウェア」などの曲や「アラウンドザワールド」収録の曲を、JASRACの許諾を得ずに店内でピアノやハーモニカで演奏して顧客に聴かせるなどして、著作権侵害を行った疑い。
再三著作権を侵害して演奏
JASRACによれば、この男は81年にスナックを開業し、85年から著作権を侵害する行為に及んだ模様だ。JASRACは再三にわたり注意したが、男はそれに応じず、同協会との対話も拒んだという。同協会は01年に東京地裁に提訴し、同年には裁判所からJASRACが著作権を管理する曲の演奏を禁ずる仮処分が下された。その後しばらくは他の曲を演奏していたが、再び著作権を侵害する行為をしたため、協会は06年9月に警視庁石神井署に刑事告訴したという。
JASRAC広報部はJ-CASTニュースの取材に対し、
「本来ならばこうしたことはしたくなかったが、公平性の観点からもこれ(刑事告訴)以外に手段を取ることはできなかった。これほど悪質なケースは珍しく、JASRACとしてもやむを得なかった」
と答えた。
同協会によれば、1948年からこれまでに刑事告訴したのは146件だが、最近では極めて稀で、都内でもここ20年で4件ほどしかない。あきらかな著作権侵害が確認されても、そのほとんどが訴訟の段階でなんらかの解決に至るケースが多い。しかも、逮捕するか否かは警察の判断によるため、今回のケースは「よっぽど悪質」と判断された可能性が高い。
ネット上では、JASRAC批判の声が上がる
一方ネット上では、この事件についてJASRAC批判の声が上がっている。
ネット上の掲示板2ちゃんねるでは、
「じゃスラックってまるでたかりだな・・・」
「音楽って誰のものなんだろなホントに 皆が自由に楽しむことを作り手も望んでいるだろうに それが単なるずる賢い金儲けの道具にしか使われていないことは悲しむべきことだ」
「たとえ商業利用であっても、自分の店でハーモニカを吹くことが、どうビートルズの商業活動を邪魔したことになるんですか?」
「ハーモニカを吹いた73歳の爺さん1人を逮捕して、『見せしめ』に牢屋に入れるという行為の是非を問いたいそれは人間として正しい行為と本当に思っているのか」
「JASRACは、日本の音楽文化を消滅させようとしてるのか?」
など、逮捕された飲食店経営者への同情の声と、JASRACへの批判のカキコミが多く見られる。
「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」の発起人で、IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんは今回の事件について次のように述べる。
「(JASRACに払う使用料については)金額の妥当性や音楽の自由を主張する人は多くいる。実際ライブハウスなどでの(生演奏の)徴収の仕方はあいまいで、またそうやって徴収せざるを得ない面があるのも確かだ。あいまいなシステムであいまいに分配しているというシステムに対する不満を持っている人が多いというのが問題だ。そのあいまいな部分を演奏者、権利者、消費者のあいだでもっと議論し、時代に合わせた制度にしていく必要性がある」