日産自動車の2006年度上期の国内生産台数は同年前期比16.9%減の57万5,625台となり、前年同期の2位から4位に転落した。
上期には2つの大きな出来事があった。ひとつは米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携交渉が大騒ぎのうちに始まり、成果なしに物別れになったこと。もうひとつは、日米欧で販売が落ち込み、カルロス・ゴーン社長の改革が始まって以来、8年ぶりに営業利益が前年を下回ったこと。いずれも日産・ルノー連合に与える影響は軽いものではない。07年度はもっと厳しいという声もあり、世界でもっとも「代わりがいない」カリスマ経営者に正念場が訪れた。
「GMとの交渉は第3のパートナーなしで高い業績を維持する自信がなくなった兆しだと推測する声もあった。しかし私たちは他のパートナーを探す必要に迫られているわけではない。今はただ、日産はかつてない新車攻勢でコミットメント完遂を目指す」―ゴーン社長は06年10月26日の中間決算説明会で新たな提携に頼らず自力で結果を出して見せると力説した。
日本、米国、欧州で同時に販売減少
カリスマ経営者に正念場
GMとの破談が日産・ルノーに痛手を残したとすれば、自ら指摘した「推測」こそがまさにそれだ。他社からは明日の成長を獲得するために交渉を仕掛ける油断ならない相手と警戒の目で見られる。内部的には、わが社のトップは自分たちの努力より提携というテコに魅力を感じているのではないかと疑念が生じる。これらを払拭するにはこれまでにもまして成果が必要なのだ。
上期の減益にかかわらず、通期は経常利益8,700億円、当期純利益5,230億円と7年連続の最高益更新の予想を据え置いた。
8年ぶりの上期業績の悪化は、正確には出来事というよりも日産の状況を表している。売上高営業利益率7.7%という数字はゴーン社長が「他社が喜ぶ水準で苦しいと見られるのはむしろ光栄だ」と言うように、トップレベルを保つ。だが販売悪化は日本で16.9%減の35万台、米国で10.2%減の51万3千台、欧州で4.4%減の27万5千台と同時に大きい振幅を伴って起きた。主要3市場で補い合うことができず不安定さが目立つ。これは05年9月までの前中期計画「日産180」のコミットメント達成に全精力が傾けられた影響によるものだ。新車投入のムラもそこに原因がある。
かつての日産は立派な計画を策定しても実行が伴わずズルズルと業績を悪化させた。ゴーン社長は計画とは達成するものだという至上命題を日産に突きつけ、強烈に焼き付けた。180の達成を含め、日産の中計コミットメントはすべて達成されてきた。
日本での不振が最大のアキレス腱
計画設定は全社だけでなくすべての組織と社員に設定されている。果てしない重圧に耐えられるのか、未達の挫折が訪れた時に至上命題の神通力は保たれるのか。これからは右肩上がりばかりではいかない可能性があるだけに企業風土も未知の領域に対応する必要が出てくる。
国内事業はとくに心配がある。志賀俊之COO(最高執行責任者)がいみじくも「日本を収益ある市場として維持していきたい」と語ったように、工場稼働率に寄与しない、もらいものの軽自動車でしか販売を増やせないようではリストラに追い込まれかねない。
現中計「日産バリューアップ」は08年度に420万台の販売をコミットメントとして公表している。05年度に比べ63万台、17.7%の増加に当たる。ゴーン社長は「バリューアップ以降の事業計画では30を超える商品を投入しこのうち少なくとも15車種を米国に投入する」と、自ら責任者を務める米国事業への傾斜を明確にする。ほかに成長を期待するのはBRICs、メキシコ、エジプトなど新興市場だ。
420万台計画で日本が寄与できるかは覚束ない。置いてきぼりになる恐れもあるがその責任者は志賀COOでゴーン社長ではない。ゴーン社長は日本事業の課題として「もっと軽を増やす必要がある」と、ある種の見切りともとれる発言をした。市場実態を見据えたリアリストの言ともとれるが、日産本体のことを考えれば志賀COOも言うように本当に必要なのは自社生産する登録車なのだ。日産の社員は「今年度販売が落ちていると言うが本当は来年度が一番きびしい。依然として量が期待できる新車が出ないから」と不安げに漏らす。日本での事業が日産にとってアキレス腱になりつつある。