「追加核実験はしない」「(核実験については)申し訳ない」――北朝鮮の金正日総書記が2006年10月19日に訪朝した唐家セン国務委員に述べたとされる発言を、日本メディアはこぞって報じた。しかし、この2つの発言は「誤報」である可能性が高まっている。韓国のいいかげんな情報に翻弄された日本メディア、そんな構図が浮かび上がってくる。
韓国メディア・聨合ニュースは06年10月20日、中国政府の内部事情に精通した北京の外交筋の話として、金正日総書記が「追加的に核実験をする計画はない」と発言したと報じた。さらに、21日には今度は中央日報が同様の報道をし、「核実験を実施する計画がないことを明確にしたと把握している」とする消息筋の言葉を掲載している。しかし、実際には「米国が我々に圧力をかけなければ」という条件付の発言である可能性が極めて高く、現時点で核実験の計画が全くないと明言しているものではなかったことが明らかになった。
要は、北朝鮮側がずっと主張していることと同じ中身で、ニュースではないのだ。
追加核実験ない、に日本の新聞おおかた追随
韓国メディアに日本の「北」報道は翻弄される
実際、米国のライス国務長官も実験を行わない意向を示したとされることについては「唐国務委員からそうした内容は聞いていない」と発言しており、韓国メディアの「誤報」と見てよさそうだ。
しかし、聯合ニュースをはじめとした「追加核実験の計画はない」という報道に日本の新聞もおおかた追随した。06年10月21日付の日経新聞は「中国外交筋『再実験、現時点でなし』」との中見出しをつけ、「中国外交筋は金総書記が『現時点で新たな核実験の計画はない』と中国側に語ったことを明らかにした」と述べている。また、中日新聞も「複数の外交筋」の話として「追加核実験の計画なし」と報道。毎日新聞も「北朝鮮の金正日総書記が19日に平壌で唐家セン国務員と会談した際、『現時点では再核実験をする計画はない』と表明していたことが20日分かった」と、「計画なし」を断言している。
「申し訳ない」発言も誤報
これだけではない。韓国メディアの「誤報」の可能性が高い報道に追随してしまった日本メディアの報道はほかにもある。それは、金総書記が中国側に核実験について「申し訳ない」と謝罪したという報道だ。
この報道のソースは06年10月20日の朝鮮日報と見られる。同紙は「金総書記が核実験について、中国側に申し訳ないとの意向を伝えた」と報じた。これには、新聞各紙がこぞって追随。産経新聞は朝鮮日報をソースとしながらも、「金総書記はまた、核実験について、中国には申し訳ないことをしたとの意味の話もしたという」と報じ、西日本新聞に至っては「金総書記は核実験について『中国側に申し訳ないことをした』と述べた」と発言が「事実」とも受け取られそうな報道をした。
06年10月23日までに、中国側が核実験実施を厳しく非難したものの、金総書記から反論も謝罪もなかったことが、唐家セン国務員に同行した中国外務次官と会談した自民党・逢沢一郎衆院議院運営委員長の証言で明らかになっており、「謝罪」についても「誤報」である可能性が現在では高まっている。さらに、23日付けの夕刊フジは、「すいませんね」程度のあいさつを「拡大解釈した」と報じている。
朝鮮日報日本支局の特派員は、J-CASTニュースの取材に対して、
「金正日の謝罪については朝鮮日報だけではなく、韓国のメディアの大半が報じている。誤報かどうかは記者本人に聞いてみなければ分からないです。韓国でもいろいろな意見があるのは事実ですが」
と答えた。
(編注:文中「唐家セン」の「セン」はは王ヘンに旋)