日本証券業協会(安東俊夫会長)が07年度税制改正に向け、証券税制の軽減税率(優遇税制)の存続に向け、根回しに入った。現行の証券税制の軽減措置では、上場株式と公募株式投信の譲渡益課税(現行の税率10%)が07年12月末で期限切れを迎えるため、その存廃が年末の税制改正論議の最大の争点だ。財務省、政府税調は株価の自律的な回復を理由に、軽減措置を全廃して預貯金と同じ本来の20%に戻すことを主張するが、日証協や金融庁、日本経団連などは「増税は株価下落の要因となる」と危機感を強め、証券業界を挙げた存続キャンペーンを展開する方針だ。
現行の軽減税率は、03年に5年間の暫定税率として導入された。日経平均株価が1万円を割り込むなど株価下落への危機感から、投資を促進して株価を下支えするのが目的だった。ところが、その後の株式相場の回復を理由に、財政再建を目指す財務省は予定通り軽減税率を撤廃すべきだと主張。政府税調も「軽減税率は本則に戻すのが妥当」と、撤廃を求める答申をまとめる見通しで、証券業界への包囲網は狭まりつつある。
証券業界にとって死活問題、が本音
財務省は軽減措置の全廃を主張
政府・与党は将来的に消費税率の引き上げが控え、カネ持ちの投資家を優遇する現行の軽減税率を存続したままでは、消費税論議に入れないとの判断が背景にある。
これに対して、日証協の安東会長は「安倍首相は『活力ある経済社会の構築』と『強力な金融市場の構築』を提唱しており、その前提として活力ある証券市場が不可欠。証券優遇税制の継続など市場強化策を引き続き強く訴えたい」と存続を求めている。「軽減税率が撤廃されれば、投資家には実質的に増税となるため、株の取引自体が減り、株価下落につながりかねず、証券業界にとって死活問題になる」(証券関係者)というのが本音だ。
日証協が存続に望みを託しているのが、自民党税調会長に就任した与謝野馨前金融担当相。与謝野氏は、金融担当相時代は、軽減措置の存続を財務省に要望していたからだ。消費税をはじめとした増税は経済活力を阻害しかねないとして極力避け、株価上昇を含む経済成長で税収を稼ぐという、安倍内閣の成長重視路線も証券界に”追い風”だ。ただ、与謝野氏は財政再建論者としても知られる。自身の考えと内閣の方針、党内の様々な声にどう折り合いをつけ、まとめていくのか。「国民各層の利害がぶつかりあう税調の会長として、その調整手腕は未知数」だけに、証券業界には期待と不安が入り混じる。
経済界には「存続はもはや不可能」との声もある
10月4日、自民党本部で開かれた証券関連の議員連盟の総会に安東会長が足を運び、「優遇税制の存続は、経済成長を重視する安倍内閣の方針と合致する。『貯蓄から投資へ』の流れは、そう簡単に定着するものではない」などとアピール。投資促進のため、軽減税率の存続を求める金融庁や日本経団連と共闘する考えを示した。
ただ、経済界では、「客観的情勢として軽減税率の全面的な存続はもはや不可能」との声もあり、上場株式や公募株式投信の譲渡益課税は増税になったとしても、配当金課税については軽減延長を勝ち取ろうという妥協案が早くも浮上している。証券業界、経済界をにらみながら、自民党内の軽減税率存続派、撤廃派のつば競り合いが加速しそうだ。