2007年1月から予定されている「改正本人確認法」が施行されると、お客が10万円を超える現金を振り込む場合には、ATMが利用できなくなるうえ、窓口で本人確認の必要が生じる。確認できる証明書を持っていないと、10万円超の金額を振り込む場合には何回かに分ける必要が出てくる。100万円だと10回必要だ。手数料もかさみ、大混乱は必至で、現場ではパニックが起きそうだ。
ここ数年来、銀行は案内役にロビー係を置いて客をATMに誘導し、利用を促進してきた。ATMの機能をレベルアップして人員を削減、経営の効率化に邁進した。
客はATMに列をつくり、現金と何冊もの通帳や請求書を持っている。月末には行列が2倍にもなるのだが、07年1月からその光景が一変する。通帳やキャッシュカードを使う振り込みは従来どおりだが、問題は、現金の場合。10万円超の振り込みには本人確認が必要になるため、ATMは利用できなくなる。ロビー係は顧客を窓口へと誘導、本人確認のための自動車免許証や健康保険証、パスポートなどの書類を提示することになる。本人と確認できなければ、振り込みはできない。
銀行は手数料を「2重取り」
各メガバンク、「改正本人確認法」に苦慮
振り込みできたとしても、例えば11万円を5万円と6万円に、2回に分けて送金しなければならないから、銀行は2回分の振込手数料を徴求することになる。手数料を「2重取り」されて腹が立たない客はいないはずだ。銀行としても手数料の「2重取り批判」だけは避けたい。
もっと深刻な事態も予測される。1月は受験シーズンで、銀行は学校の受験料や入学金などの支払いで振込件数が多い時季だ。入学金の支払いは、1日遅れても合格が取り消しになる。客が入学金をギリギリに持ち込んでも、本人確認ができずに学校指定の締め切りに間に合わない、そんなケースが続出することが予想されている。あるメガバンクの行員は「受験生をもつ親御さんの気持ちを考えると、パニックになる恐れがないわけではない」という。
メガバンク、窓口対応分の振込手数料引き下げ検討
こうしたトラブルを回避しようと現在、金融庁も文部科学省に対応策の検討を申し入れてはいるが、実施まであと3カ月。わかっていることなのに、告知すらしていない。そもそも本人確認法の強化は、テロ対策などの資金洗浄(マネーロンダリング)への日本の対応が甘い、との指摘による。振り込みの際も、誰がどこへいくらのカネを送金したか、をチェックしようというわけだ。もっとも、通帳やキャッシュカードを使って、振り込みをすれば、従来どおりに送金できる。
これへの対応をめぐってメガバンクや地方銀行が頭を痛めている。改正法の施行に伴い、メガバンクなどは、ATMより窓口での取り扱いのほうが手数料を高く設定しているため、「振込手数料の2重取りによる、儲けすぎ批判が再燃する」(メガバンク幹部)恐れがあると警戒する。窓口で本人確認ができなければ、振り込みそのものを受け付けないことから、「大混乱は必至」(大手地銀の幹部)。そのため、メガバンクなどは窓口対応分の振込手数料の引き下げなどの見直しに着手した。