本格的に動き出した足利銀行の受け皿さがし
地元重視も、高値売却は至上命令?

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「国の負担軽減」で、メガバンク、投資ファンドの巻き返し 

   現在、受け皿に名乗りを挙げているのは、横浜銀行を中心とする関東地方の地銀連合、地元の栃木銀行と大和証券SMBC、野村証券オリックスりそなホールディングス(HD)の連合、みずほグループ系の証券会社と投資ファンド。これに新生銀行あおぞら銀行三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)なども関心を示しているといわれる。
   最有力と目されている横浜銀行ら地銀連合だが、参加を呼び掛けられている地銀からは「受け皿となる持ち株会社を通じて、足利銀行の経営に積極的に参加したいと考えている地銀と、そうでない地銀では温度差がある」との声や、「連合への参加は、あくまで投資ということになる。ただ、足利銀行に投資をして失敗した場合に株主代表訴訟になる恐れがある」などの声が聞かれ、まだまだ予断を許さない。
   そもそも、現段階で有力視されているのは、与謝野・金融担当相らの「地域重視」の発言によるところが大きい。しかし、預金保険機構が持つ足利銀行株の売却は、返済を前提とした公的資金と違って、贈与となる。その原資は預金保険料のため、地元県民の意向は反映されにくいと考えるのが妥当だ。
   銀行界からも「なぜ、我々が縁もゆかりもない足利銀行の損失額を負担しなければならないのか」(メガバンク幹部)との声や、「民間銀行のカネで機構、すなわち国が再建しているのだから、金融当局は地元の意向を念頭に置いた議論などするはずがない」(大手銀行の幹部)との声が漏れてくる。
   当の与謝野金融担当相も昨年11月には、「国や中央が勝手に決めるということはあり得ない」と述べる一方で、「債務超過のところは金銭の贈与で解消しなければならないので、国民の立場からはどうやって最小化できるのかという問題がある」と語っていて、足銀問題が栃木県単独で解決できる範囲を超えていることを示唆している。
   足利銀行の買収には、国からの株式取得費用と買収後の自己資本の増強に、少なくとも3,000億~4,000億円が要るとみられる。実際の資金投入は、売却価格と足利銀の債務超過額(06年3月期で3,832億円)を相殺した結果、最終損失額が確定した時点になるので、単純に売却額がこの債務超過額を上回る金額となれば、資金投入は必要なくなり、預金保険機構、つまり国の負担は軽減される。高値売却には国の思惑もあるわけだ。
   りそなHDは“スーパーリージョナル”(広域地域銀行)を標榜し、東西に4つの都銀と地銀、信託を有する。ただし、ここも足利銀行と同じ年に3兆円超の公的資金を資本注入し、実質的な国有化状態にある。このため、約4,000円の売却資金を出せる状況にない。そこで本格的な銀行買収に意欲的なオリックス、りそなHDと親密な野村證券と組むことにした。
   地元の第二地銀・栃木銀行は、資金量2兆円で第二地銀業界第8位。同行の小林辰興頭取は意欲をみせるが、現在地銀第14位で資金量4兆円を超える足利銀行の面倒を見るには荷が重い。
   ちなみに、“小が大を飲む”例は、北海道の第二地銀、北洋銀行が97年秋に経営破綻した北海道拓殖銀行を譲り受けている。
   みずほFGが取り沙汰されるのにはわけがある。母体の旧富士銀行、旧第一勧業銀行は昔から東北地区で強く、友好地銀も少なくない。その両行が「みずほ」になったのだから現状でも優位にあるが、これを常に脅かす存在がMUFGだ。東邦銀行の頭取で全国地方銀行協会の瀬谷俊雄(俊夫)会長は、旧第一勧銀OBでもある。関東と東北を結ぶラインに北関東が加われば、みずほFGの、このエリアでの勢いは増す。
   一方のMUFGは、常陽千葉八十二といった旧三菱銀行の友好地銀が関東地区には目白押し。そもそも足利銀行もその一員だったが、破綻時に三菱は足利銀行を見捨てた。それもあって、栃木県では評判を落としたが、地銀連合を後押しすることで巻き返しを狙っているとの観測がある。 栃木銀行を、三井住友銀行と提携する大和証券SMBCが後押しすることで、見方のよってはまさにメガバンクの三つ巴の争いともとれる。
   関東・東北にクサビを打ちたい、みずほ。再度、足利を抑えて関東地区を磐石にするMUFG。それらに待ったをかける三井住友FGと、いわばメガバンクの国盗り合戦が足利銀行の「受け皿」に飛び火した格好なのだ。
   受け皿の候補先が出揃うのは10月末。今のところ、「外資系ファンドなどの名前があがらないのが不思議」(大手地銀の幹部)と、まだまだ候補先は増え、二転三転するとの見方もある。これまで外資系ファンドが経営破綻した銀行を再生ビジネスと捉え、再生終了後の再上場で破格の上場益を得たことを思えば、足利銀行は“最後の大物”として期待できる。
   「資産内容も健全になるうえに、もともと収益力の高い銀行だったから悪い買い物になるはずがない」(関東地区の地銀関係者)。
   ある銀行関係者によると、投資ファンドや金融機関の関係者が金融庁や預金保険機構に足を運び、足利銀行の受け皿情報の収集に躍起になっているという。なかでも積極的なのが投資ファンドという。
   売却する側の預金保険機構も投資ファンドが有力な引き受け先との認識はある。「高値売却は至上命令。売却益を前提に高値で買ってくれそうな投資ファンドが有力候補先となる。単独での名乗りを挙げるのではなく、どこかと組んで仕掛けてくるだろう」(メガバンクの幹部)とみる。 レースは最後までもつれる。


* 足利銀行の一時国有化後の経過

2003年11月29日 足利銀行が経営破綻。国が一時国有化を決定
     12月 1日 預金保険機構が株式を強制取得。特別危機管理銀行に
       16日 新頭取に池田憲人氏を迎える
04年 6月11日 足利銀行が04年3月期の決算を発表。債務超過は6,790億円
    11月28日 栃木県知事に福田富一氏が初当選
     12月17日 福田知事が県産業再生委に望ましい受け皿を諮問
05年 3月30日 県産業再生委が、足利銀行の単独再生と地域銀行との合併の2案を併記して答申
    5月25日 05年3月期決算発表。最終利益は1,219億円
06年 5月24日 06年3月期決算発表。最終利益は1,603億円
    6月21日 県警が旧経営陣の立件断念を正式表明
   9月 1日 与謝野馨金融相が受け皿選定開始を宣言


*金融庁が例示した主な取り組み実績
 (04年3月末と06年3月末との比較)
◆法人融資先数        1万6,124→1万8,635
◆個人ローン残高      8,266億円→9,920億円
  (うち、住宅ローン    7,481億円→9,300億円)
◆個人預かり資産残高  1,400億円→3,857億円
◆役務取引等利益      113億円→131億円
◆行員数            2,628人→2,180人
◆人件費            204億円→197億円
◆物件費            239億円→183億円
◆有人店舗数         167カ店→150カ店

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