本格的に動き出した足利銀行の受け皿さがし
地元重視も、高値売却は至上命令?

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※この記事は、「足利銀行の譲渡先 地銀連合が最有力」の詳報です。

   2003年11月に一時国有化された足利銀行の受け皿金融機関を選定する作業が動き始めた。金融庁が示した入札の基本的な条件に基づき、足利銀行の受け皿金融機関を公募。事業計画の審査などを経て、来夏には譲渡先が決まる見通しだ。9月5日には「足利銀行の受皿選定に関するワーキンググループ(WG)」が初会合を開き、19日には栃木県の福田富一知事が「地元の要望」を述べた。こうした状況のなか、「受け皿」には横浜銀行を中心とした関東地区の地銀連合や栃木銀行大和証券SMBC、メガバンクや複数の投資ファンドも食指を伸ばしているという。預金保険法による破綻処理は足利銀行が初めてのケースだけに、その帰趨(きすう)が注目されている。

   経営破綻し一時国有化された足利銀行の受け皿問題を検討する金融庁の有識者委員会(座長・村本孜成城大教授)の初会合が5日開かれ、譲渡先の選定に向けた検討が本格的に始まった。委員会は、五味廣文金融庁長官の懇談会として設置。地元関係者らからヒアリングを行うとともに、法律や会計など専門的な立場から金融庁に助言する。
   19日には栃木県の福田富一知事から意見を聞いた。それによると、受け皿の公募要領に関する要望と、受け皿の選定に関する要望とに分かれていて、公募の条件では候補先に応募した理由の明示や新銀行の基本的な経営ビジョン、中長期的な経営主体や株主構成を明示すること、また足利銀行の資産査定についての配慮などを求めている。
   受け皿の選定に関する要望では、地銀として地域密着型金融の機能強化や中小企業の育成、情報技術を活用したビジネスモデルの構築、地域貢献の確保、指定金融機関の機能維持と他の金融機関との協調を求める一方で、ガバナンスについて機関銀行化の防止を、さらには預金保険機構による一定株式の保有、株式上場前の第三者への株式譲渡の防止などを訴えた。
   福田知事は昨年5月にも小泉首相宛てに「足利銀行の受け皿に関する要望書」を提出している。そこでは、足利銀行の受け皿金融機関の選定が「栃木県経済にとって極めて重要な意味をもつ」として、(1)受け皿は、本県の地域経済に理解を持ち、本県産業・経済の再生・発展に果たすべき役割と責任の重大性を認識し、地域の中核的金融機関としての機能を担保することができるものであること(2)受け皿の選定過程においては、県民の意向等を十分反映できるよう県を参画させること(3)受け皿への移行は、本県の経済状況の動向や中小企業の実態等を十分に勘案しながら、預金保険法第120条の趣旨に基づき、できる限り早期に行うこと――の3点を求めていた。
   一時国有化から2年9カ月が経過し、ようやく選定が開始されることについて福田知事は「少し長かったかなと思う」と不満をにじませたものの、預金保険法は他の金融機関との合併や営業譲渡による受け皿移行も認めるが、実際には複数の企業などが出資できる株式譲渡方式をとる見通しで、福田知事も19日には「株式譲渡による単独再生」を熱望した。

「地域」の声反映で、地銀連合優勢か? 

   金融庁は足利銀行の受け皿の選定基準として、(1)金融機関の持続可能性(2)地域における金融仲介機能の発揮(3)公的な負担の極小化――の3条件をあげている。
   足利銀行の受け皿選定の開始にあたって、与謝野馨金融・経済財政担当相は「資本の論理だけでなく、地域経済を本当に心配する、地域経済とともに生きようと思う受け皿が望ましい」と発言。福田知事も「高く売れればいいというのではいけない。栃木県や近隣地域を十分に理解してくれる受け皿が最低条件」とクギを刺している。
   「県民の意見にしっかり耳を傾ける」ことを強調する両氏ではあるが、では実際に地元・栃木県民は足銀問題をどう受けとめているのだろうか。
   現地では、一時国有化後の舵をとってきた池田憲人頭取の経営手腕を高く評価する声の多さに驚かされる。破綻直前に同行の増資に協力して損害を受けた宇都宮市内の、ある経営者は「国有化後の営業姿勢を見ていると、行員も我々と同じ被害者という気がする。破綻後も親身になってくれ、融資をしてくれたので、このままの足銀で再生してほしい」と期待。宇都宮市で製造業を営む経営者も「地域密着、地域貢献という地銀の経営を一番わかっている人」と、池田頭取の続投を望む声ばかりだ。
   池田氏は、横浜銀行の出身。足利銀行の受け皿に名乗りを挙げている、横浜銀行ら関東地区の地銀連合が最有力と目されている要因のひとつは、このあたりにもありそうだ。
   オリオン通り商店街の、ある商店主は「ドライな経営判断が経営者には必要なのはわかるが、栃木の風土にあった、いまの経営を引き継いでほしい」と話す。
   かつての足利銀行がバブルに踊って、東京での資金運用に傾注し“地域を離れた”。その二の舞に警戒感を隠さない。
   足利銀行に出資していた、旧株主のひとりは「こちらは大損害を被ったまま。この2年半、旧経営陣の責任も問えず、どこかなおざりにされたまま選定作業が進むことに釈然としない。いまでも国有化が必要だったのか疑問だし、りそな銀行(公的資金の資本注入で存続)との違いがなぜ起こったのか、理解できないことばかりだ」と、怪訝な顔をする。
   栃木県選出の渡辺喜美衆院議員や福田知事らが唱える「県民銀行」構想には、「県民の利益につながるのが前提。そのためには外資だろうが、投資ファンドだろうが厭わないことだ」と手厳しい声もあり、選定作業を見守る構え。足利銀行の再生に、期待と不安が交錯する。
   本格的な受け皿選定を前に金融庁は9月1日、足利銀行が一時国有化後に取り組んできた経営改善状況について、検証結果を公表。それによると、本業のもうけを示す実質業務純益は04年度、05年度の2期連続で400億円を上回り、今年度も同水準が見通せる状況となった。不良債権比率は、04年3月期決算で20・62%だったのに対し、06年3月期決算は7・77%に低下。07年3月期で目標にしている6%台達成も視野に入った。
   外部機関を活用した企業再生の支援実績としては、産業再生機構11件、整理回収機構6件、中小企業再生支援協議会57件。法人融資先における要注意先・要管理先・破たん懸念先から上位にランクアップしたのは、04年3月末から05年3月末が1,424件、05年3月末から06年3月末が1,130件となっている。今年度は経営改善計画(3カ年)の最終年度にあたる。
   池田頭取は「当行が特別危機管理銀行から民間銀行へ移行する最終ステージを迎えたということであり、関係各位に心より感謝申し上げます。引き続き、企業価値の向上を目指し、金融機関としての持続可能性の保持と地域金融の円滑化の確保にむけ、役職員一丸となり努力してまいります」とのコメントを発表している。

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