後藤田正純衆議院議員が2006年9月6日、金融担当政務官を辞任した。05年11月に就任以降、消費者金融などの金利の正常化を目指し動き続けてきた。金融庁の貸金業懇談会で業者側の強い抵抗を押し切り、06年4月の中間報告では上限金利を刑事罰上限の年29.2%から利息制限法の上限15~20%に引き下げ、2つの法律のグレーゾーン金利を撤廃する方向に導いた。しかし、特例金利28%など9年間の経過措置が金融庁案として盛り込まれた。「なぜ金融庁が(貸金業界に)妥協した案を出さねばならないのか理解できない」。辞任はそうした抗議の姿だった。
――金融担当政務官辞任という決断の過程に何があったのですか。
J-CASTニュースのインタビューに応じる後藤田正純衆議院議員
後藤田: これまで消費者金融にフォーカスして貸金業規正法改定に取り組んできたんです。三権分立の中の司法がグレーゾーンを無くしなさいと判決を出し、政調会長合意でもグレーは廃止で、利下げが大勢を占めたんです。まぁ、ゴルフに例えると、ショットを打ってピンぎりぎりに行くはずだったにも関わらず、急にバックスピンがかかってラフに行ったというか、バンカーまで落ちていって、ピッチングとアイアンを振り回すような状態になったわけです。
――グレーゾーンの先延ばしに反発したわけですね。
後藤田: なぜ妥協が生じたのか。中途半端な結論と妥協は政治家として容認できず、金融担当として責任が持てないなら、辞任を持ってお詫びしたい、ということです。特例を定めてのグレーゾーンの先延ばしはやめるべきで、本来なら1年も待たずに廃止すべきで、諸事情を考えても、マックス3年だと思う。「先延ばしでいいんですか?」と私は問いたい。利息制限法の上限は20%で、民事上黒なわけだから、これを超えた金利で貸すのを許してはいけないんです。
――辞任したことで「政治家はこうあるべきだ」「未来の首相候補だ!」などとネットでは賞賛の声が多い一方で、「辞めずに信念を貫くべきだ」という意見も出ているようですが。
後藤田: 場を変えて一国会議員として部会などで活動したほうがいいと判断しました。結局、 (貸金業懇談会などで)論点、意見は出尽くしているんです。あとは政治判断で実行に移すだけ。そして今後これ(私たちが提案してきた改正案)を実行しなければとんでもないことになるのは明白です。自民党国会議員、公明党も含めて国会でコテンパンにやられる。だからこそ、私が辞任した直後から「話が聞きたい」「議連を作ろうじゃないか」と自民党、公明党、民主党の議員の方から次々にお誘いがあった。民主党だけで10人以上来たんじゃないかなぁ。みなさん、何が正しいか間違っているか分かっていらっしゃるんです。
――つまり、後藤田議員の政治家としての信念に賛同する人が集まってきているというわけですね。
後藤田: この壁にある書を見てください(と、右手で指し示した)。私の座右の銘はこの「逆命利君」なんです(命令に逆らいつつも、「君」つまり上司に利をもたらすという意味)。私が辞任したのは、消費者のため、自民党のために利するという思いなんです。「金利を急に下げると借りられない人が出てくる。特例は利用者のためで、業者のためではない」などと発言する人もいたが、あまりにもいいかげんな発言だ。
年間20万人の自己破産者、多重債務者は200万人。サラ金から借りているのは2,000万人。これをどう考えるの。そこまでしたのはだれだ。ヤミ金から借金するプロセスを見ても、大手が「初めての方のために」とか宣伝して誘う。それでいて、借金が膨らむと貸さなくなるから、中小に借りに行かざるを得なくなる。自転車操業。リボルビング中毒。永遠に借金漬けになるのに、貸してあげるのが親切なのか?
――「自民党議員(サラ金議員)の一部から改正に強い反発が出た」などという報道もありますが、実際に圧力はあったのですか。
後藤田: そこらへんはよくわからない。まぁ、反対意見は何にでも付き物ですから。ただ、自民党の部会もクローズドが多いですし、政府の懇談会もお天道様の下で行うべきです。今回の改正では金融庁に案を出させて、その後の論議で金融庁を悪者にして叩いているようですが、「それは汚いぞ!」と感じる。大臣の特令ならば議員主流でやって責任を持てと言いたい。特例を作りたいなら、特例を作りたい議員が表に出て議員立法でつくるべきなんです。
――改正案を出した金融庁にも問題があると。
後藤田: 金融庁の職員も貸金業規正法改定をどうするかでは苦労したんです。その努力は私も評価している。ただ、もう一回「お天道様を見てごらん。金融庁の諸君よ!」といいたい。与謝野大臣も特例に反対していたんです。大臣の言葉はそんなに軽いものではないでしょう。
――先ほども話に出ましたが、サラ金などの借金で苦しむ人が、いつまでたっても減る気配はないですね。
後藤田: 駅前、高速道路、消費者金融の看板ばかりじゃないですか。国民がいつ、そんなことを許したのか。いつのまにか借金を奨励する国になってしまった。食の安全、住居の安全ときて、最近は飲酒運転の問題がクローズアップされていますが、さらに「家計の安全」をどうとらえるのかということです。
低金利だからローンで(マンションなど)が買いやすいとか、国債を買うと有利だとかいって、借金を奨励しているようだが、庶民の実態は消費者金融から高金利で借りていて、多重債務で苦しんでいる。
そういう私も、三菱商事のサラリーマン時代、飲み会だとかなんだとかで給料では足りなくなって、消費者金融から借りていたこともある。簡単に借りられて、そのときは借りることについて、あまり深く考えてはいなかった。本来なら貯金して「有事」に備えようとか、そう考えるべきなのです。社会がどこかで捻じ曲がったような感じだ。
――かつては日本人の貯蓄率が世界一と言われた時代もありましたね。
後藤田: 日本という国は、貯蓄が美徳で、中流階級がいたから購買力で発展しました。それが「貯蓄から投資へ」、だけでなく、「貯蓄から借金へ」の流れが出た。ゼロ金利時代だから株などに投資しなさい、などの呼びかけがありましたが、大手消費者金融は上場企業。株価が上がることで消費者金融は潤う。その消費者金融が29%もの金利で貸し出したカネは、もともとメガバンクがその10分の1ほどの金利で貸したものです。そしてどんどん消費者からカネを巻き上げ消費者金融、メガバンクは空前の利益。これは「金利談合」と呼ばずして何なんですか。
――これをどう変えていけばいいのでしょうか。
後藤田: 私はこうだと思っているんです。議論じゃなくて、この社会において金融市場においてカネを借りることはどういうことかをしっかり教えなければならないんです。学校教育から。社会でもカウンセリングを実施し、セーフティーネットを構築する。低い金利と高い金利の差がありすぎます。自由競争なら、なんでその中間がないのか。メガバンクがミドルリスク、ミドルリターンの商品を拡大しなければならない。信販やクレジット会社の中には金利を下げているところがある。それが良識だと思います。
――これからは国会議員として金融以外にも日本をどういうふうに正していくおつもりですか。
後藤田: 「規律」。これを前面に訴えていきたい。社会の規律、市場の規律、財政の規律…。今回の利息制限法の議論を見ても「国家観」が無い。自由にやっていく、というようなアメリカ的な発想に引き摺られ、国民の生活、生命を守ろうとしないのは、政府の不作為と言わざるを得ない。
【後藤田正純プロフィール】
1969年8月5日生まれ。1993年 慶應義塾大学商学部卒業。大学時代に大叔父である故後藤田正晴氏の秘書を勤める。1993年三菱商事入社。2000年衆院徳島3区から初当選。当選3回。妻は女優の水野真紀さん。一児の父。