「クジラの肉が売れなくて余っているんだって」。そんな話がネット上のブログなどで飛び交っている。きっかけは朝日新聞2006年9月9日夕刊の『クジラ余っても高い』『在庫は1年分』という見出しの記事だ。来年は調査捕鯨の捕獲量が拡大されるというのだが、ホントに余っているのか?
朝日新聞には、
鯨肉の在庫はだぶついている?
「調査捕鯨の拡大で鯨肉の供給は10年前の倍以上になった。しかし、商業捕鯨停止以降の約20年の間に、大半の水産卸が鯨肉を扱わなくなり、流通が追いつかなくなった。このため昨年末で年間供給量に匹敵する約3,900トンの在庫が積み上がった」
と書かれている。
調査捕鯨での捕獲高は昨年約4,000トンだから、そのほとんどが売れ残っているかのように見ることもできる。グリーンピース・ジャパンはJ-CASTニュースの取材に答え、
「どれくらい余っているかは年間の時期によって異なりますが、朝日新聞の記事は本当です。我々はこの実態を今年06年6月に開催された第57回国際捕鯨委員会(IWC)に報告し、参加国の方々がとても驚いていました」
と話した。
海外では、日本人がクジラを食べるのは伝統的食文化で喜んで食べていると思っていて、だから日本は調査捕鯨を主張するのだと考えていた。だからグリーンピースの報告に驚いたというのだ。
「鯨肉が余っているのに、さらに調査捕鯨を拡大し、無駄な税金がどんどん使われるなんて変だと思いませんか」
「流通のためのストック」と水産庁や業者
水産庁は朝日新聞の記事についてJ-CASTニュースに、
「反捕鯨国のメディアが、日本で鯨肉が余っていると伝えているのは知っています。朝日新聞もそれを参考にしたのかもしれませんが、余ってはいません」
とキッパリと答えた。
確かに昨年末に3,900トンほどの在庫があったが、それは年間で最もストックを抱える時期で、流通する前だったという。さらに、毎年の調査捕鯨費は50億円~60億円で、うち5億円が税金。残りは鯨肉の販売で賄うため、確実に売れているというのだ。
ある鯨肉中卸大手の担当者も、「我々は販売するためにストックしているのだから、余っているという表現は間違っている」と話した。ただし、商業捕鯨が禁止されて20年になり、クジラの卸業者が激減して、鯨肉の流通が物理的に滞ることもあることは認めた。
「値段が下がると不足に」
一方で、若い年代では鯨肉を食べる文化が薄れている。ブログにも「食べたことないんですけど、美味しいんですか?」「もう日本じゃ味を知らない人も多数おられるわけで・・・」などと書き込まれたものもある。水産省は「日本古来からの食文化が廃れては困る」としている。日本捕鯨協会によると、近年は学校給食に鯨肉をメニューに加える動きが出てきて、現在では全国で3,500校にまでなったという。先の卸業者は、「日本人は鯨肉が好きなんです。しかし今、値段を下げたり大手スーパーとの取引を拡大すると供給が追いつかない。やはり、捕鯨再開が待たれているんです」と話している。
【訂正】
日本でクジラ肉が余っていることを国際捕鯨委員会に向けて発表したのはグリーンピース・ジャパンではなく、イルカ・クジラとの共存を目指す「イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク」(IKAN)でした。フリーライターの佐久間淳子さんのレポートを記者会見で発表したり、配布したものです。また、「2005年12月末のクジラ肉在庫は3,900トンで、年間で在庫が増える時期」としましたが、農水省の統計によると、05年度の在庫のピークは8月末の4,804トンでした。3,900トンは11月末の数字でした。訂正いたします。