製紙業界最大手の王子製紙が経営統合を目指し、北越製紙に仕掛けた敵対的な株式公開買い付け (TOB)が不成立に終わり、王子の財務アドバイザー(FA)を務めた野村証券の今後の行方が注目されている。国内の大手企業同士で初の本格的な敵対的TOBを成立させて、野村は国内のM&A(企業の合併・買収)市場で実績をつくる。その上で、今後も予想される敵対的TOBのディールを一手に請け負う戦略だった。その挫折は、野村のイメージダウンにつながりそうだ。
今回の敵対的TOBでは、黒子役のFAをどこが務めるかが注目された。王子についた野村は、北越の主幹事証券会社を務めている。王子の主幹事は日興コーディアル証券と野村が持ち回りとなっており、現在の会社四季報上の主幹事は日興。つまり、日興が主幹事である王子製紙が、北越の主幹事の野村と組むという、ねじれた関係にあった。
敵対的TOBの主幹事は外資系証券会社だった
東京都中央区の王子製紙本社。野村証券は王子の財務アドバイザー(FA)を務めた
これまで、日本の大手証券会社は、取引先との摩擦を避けるため、敵対的TOBにかかわることを避け、結果として敵対的TOB案件の主幹事は外資系証券会社が務めてきた。今回、野村が敵対的TOBのFAを務めただけでも話題を呼んだが、証券業界では王子と北越の主幹事証券がネジレたことも、「ビジネス優先の野村のなりふり構わぬ行動」として話題をよんだ。
北越は、本来は頼りにするはずの野村の「裏切り」を受けて、急遽、クレディ・スイス証券をFAに選任せざるを得なかった。王子のTOB阻止に伏兵の役割を果たした日本製紙グループ本社のFAは、モルガン・スタンレー証券が務めるなど、野村以外の日本の大手証券は出る幕がなかった。
野村は強気の姿勢を崩していない
今回の敵対的TOB失敗について、野村の幹部はJ-CASTニュースの取材に対し、「影響はゼロではないが、たいへんな影響を受けるとも考えていない」と、平静を装う。野村としては年間150件程度のM&Aを成立させており、「提案だけなら2倍はある」という。今後のM&A案件で敵対的TOBが次々と浮上する可能性は低いものの、野村は「正々堂々とビジネスプランを提示し、是非を問う手法はこれからも続けたい」と強気の姿勢を崩していない。
今回の敵対的TOBの不成立を受け、野村の真価が問われるのはこれからだが、市場では「野村をもってしても、国内では敵対的TOBの成立が難しいことがわかった。野村にとって最大の誤算で、今後のビジネスに影響するだろう」との見方がもっぱらだ。