日本のテレビ広告が危機に直面している。「第4ディア」に浮上したインターネットが広告費でもラジオを抜き雑誌を追い上げ、テレビの広告市場をうかがっている。さらに"CMスキップ"できるHDD(ハードディスクレコーダー)の普及がこれに追い打ちをかけている。
日本のテレビ業界を震撼させる事態が米国で起こった。トヨタ自動車が米国3ネットワークのひとつNBCと結んだCM契約がそれだ。
視聴者の関心を引けなかった場合、追加CMを無料で放送
トヨタがユニークなCMを流した新型車「bB」
トヨタが提供する番組について「番組関心度調査」を行い、視聴者の関心を引けなかった場合、NBCは埋め合わせの追加CMを無料で放送しなければならない。「テレビCMは本当に効果があるのか。トヨタにとってどれほど有益なのか見極める必要があった」(米国トヨタ販売)という。
このトヨタの「英断」に日本での反応は真っ二つに分かれた。
「見られない番組にペナルティーを科すのは民放には厳しい。無料の追加CMが増えたら大きな収入減につながる」(民放幹部)
日本の広告費(05年)の総額は5兆9,625億円で、(1)テレビ2兆411億円(2)新聞1兆377億円(3)雑誌3,945億円(4)インターネット2,808億円(5)ラジオ1,778億円の順。ネット広告は04年にラジオを抜き07年には雑誌を上回ると予想されている。
ネット広告の広告主はこれまで金融、求人など限られた企業が多かったが、最近は大手企業も無視できなくなっている。「世界のTOYOTA」はこっちでも意欲的で、05年12月の深夜帯で奇妙なCMを流して話題となった。
「CM飛ばし」のできるHDDが普及
テレビ画面に表示されるのは「トヨタ、ミュージックプレーヤー発売」というコピーとサイトのURLのみ。パソコンでこのサイトに接続すると音楽番組を楽しめる。ネットに客を誘導して新たなファンを獲得する戦略。新型車「bB」のCMで、トヨタは同車の広告費の1割をネットに費やした。
テレビ広告の脅威はネットだけではない。「CM飛ばし」のできるHDDの普及はテレビのデジタル化とともに伸びている。野村総合研究所が昨年春行った調査では視聴者のCMスキップ率は64.3%にのぼり、損害額は年間540億円になると試算した。
ヤフー・ジャパンの井上雅博社長は「ネット広告市場はいずれ1兆円になる」と豪語している。国の許認可行政に守られ高収入・高給与を謳歌してきた日本の民放テレビ局。いま「前門のネット広告、後門のCMスキップ」に追い詰められようとしている。