個人情報保護法の余波が、就職活動にも押し寄せている。企業が大学へのOB名簿の提供を渋り始め、「OB訪問」ができなくなったからだ。その代わりに、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が、学生たちのなかで活用され始めている。
就職活動する際に、行きたい企業のOB・OGの連絡先が掲載された「OB名簿」が大学にあるのはいわば「常識」だった。名簿を頼りに、学生はOBと面会して、その企業の実際の雰囲気を知ることができた。
個人情報保護を理由にOB名簿出し渋る企業が続出
SNSのmixiでは就職関連のコミュニティがたくさん見つかる
しかし、個人情報保護を理由にOB名簿を出し渋る企業が続出してきた。2006年8月17日付けの読売新聞によると、「OB訪問に限っての利用」としたうえで、東京大学が提供を要請しても、応じた企業は240社にとどまった。他大学でも、名簿の出し渋りが目立つ。
そんな中で、SNSを使ってOB訪問しようとするケースが出現しはじめた。SNS大手のmixi(ミクシィ)では、OB訪問を受け付けてくれる人を募る項目(トピックス)をいくつも見つけることができる。実際、OB訪問を受け付ける会社員まで登場している。
都内の広告代理店に勤めるAさんは、OB訪問と学生が会社に提出する書類であるエントリーシートの添削を06年2月から受け付けはじめた。「訪問」は出身大学を問わないので、そこが普通の、OB訪問とは違う。訪問を希望する学生のカキコミが70件近く、メールで訪問の依頼をした人もいた。Aさんがつくったコミュニティには現在約400人の人が参加している。
出身大学に関係なしが、人気の最大の原因だ。「なかなか学校のOBが見つからず、困っておりました。是非OB訪問させていただきたく思います」といったカキコミも見かける。就職活動が最も盛んになる2月頃には殺到し、Aさんは昼に2人、夕方に5人ほどの訪問を受け付けるなど、ちょっと大変そうだ。
広告、商社、金融、製薬‥‥OBは見つかる
また、SNS・GREEでのOB訪問もなかなか盛んだ。OB訪問を受け付ける、就職支援コミュニティでは、IT業界に勤務するOB・OGが学生の訪問を受け付けるスレッドで、会社員20人以上が参加している。ほかにも、広告・商社・金融・製薬業界など、様々な業界で働くOBを見つけることができる。このコミュニティを作成したBさんは、自分が大学生だった頃に何度も「OB訪問」し、それが就職の判断基準になった、という。「彼女(OG)と会って客観的に話を聞いてもらっていなければ今の自分はいません」。Bさんは、OB訪問したくても、連絡先が分からなかったり、大学の先輩が見つからない人に多く機会を与えたい、と思ったのが開設のきっかけだ。コミュニティには現在500人以上が参加している。
しかし、SNSを就職活動に使わない人もいる。2006年に通信会社に入社したある女性社員は就職活動の際、「魅力的なコミュニティがあったので、情報収集のためにも入ろうかとも思ったけれど、ネット上だと身元もよく分からないし、不安で入るのをやめてしまった」と明かす。多くのSNSは、「招待制」などで一応安全性を確保しているが、実際には参加している人の「本人確認」などはできていない。インターネットに詳しいある弁護士は次のようにいう。
「SNSでも本人確認などをしているわけではないので、ある程度リスクがあることを知っておくのも重要だ。OB訪問だと思って行ってみたら何かの勧誘だったという可能性だってある。複数の人と行くほうが良いだろう」