2006年8月15日、小泉純一郎首相は「公約」どおり終戦記念日に靖国神社を参拝した。「首相の靖国参拝」について、翌日の新聞各紙は概ねこれを批判的に取り上げている。しかし、ネット上の反応は圧倒的に「小泉支持」が優勢だ。なぜこれほど乖離があるのだろう。
新聞各紙は、産経を除いて参拝に批判的
小泉首相が参拝した靖国神社。新聞とは対照的にネット上では参拝を支持する声が多い
06年8月16日付の新聞各紙は、産経新聞を除いておおむね小泉首相の靖国神社参拝に批判的だ。
読売新聞の社説「『心の問題』だけではすまない」では、首相が「A級戦犯」を「犯罪人」としているのにもかかわらず、そこに参拝するということの「矛盾」を指摘。朝日新聞は「耳をふさぎ、目を閉ざし」と題した「社説」で、8月15日の参拝を「外交的な挑発と受け止められかねない行動」とし、「6回に及んだ首相の靖国参拝は誤りだった。戦没者の追悼という大事な問題で国内に亀裂を生み、偏狭なナショナリズムを刺激し、外交を行き詰らせた」と厳しく批判している。
毎日新聞社説でも「意地を張っただけにも見える」「国内でも、国際社会でも通用するきちんとした回答を用意しておくべきだ。来年もこんな騒ぎを繰り返すのは、もううんざりだ」と小泉首相を批判。同紙1面ではさらに、「国家指導者としての思考の体系性、歴史観を決定的に欠いている」との記事を掲載している。
一方、産経新聞だけが「6年越し 国益守る」と題した「小泉支持」の記事を1面に掲載。終戦の日の靖国参拝は国の戦没者慰霊のあり方を示したという点で「意義がある」というわけだ。
「マスコミが悪い」という若者は少なくない
しかし、ネット上では、新聞各紙とは対照的に、「小泉支持」が圧倒的だ。
ヤフーの「Yahoo!みんなの政治」で、06年7月4日~7月12日に実施されたアンケート「日本の首相が靖国神社を参拝することについてどう考えていますか?」では、「とくに問題ない」「周辺諸国との関係が懸念されるが控える必要はない」「政教分離の問題があるが控える必要はない」の合計が61%で1,611票。否定的な1,060票を大きく突き放した。また、ライブドアニュースの投票でも、「あなたは、総理大臣の靖国神社参拝に賛成ですか?」との問いに、82.68%が賛成で、反対はわずか17.31%。「中国の思惑に利用させないよう、毅然とした態度をとるべきです。そして、靖国を問題として大げさに扱うマスコミも間違っています」などの「賛成派」のコメントも掲載されている。2ちゃんねるでも、「首相就任5年目でようやく、終戦記念日に参拝できた。これで、中国からの『悪しき外圧』から、日本の政治は解放された。」「騒いでるのはおまえらマスゴミ」など、小泉支持とマスコミ批判のカキコミで溢れている。
20代・30代では「参拝賛成」が実に72%
なぜ、新聞各紙とネット上では、首相の靖国参拝をめぐる賛否がこれほど極端に割れているのか。
若年のほうが年配者に比べて、ネット利用者が多いことが原因と見られる。つまり、若年層に首相の靖国参拝を支持する意見が多く、そういった若者がネット上で発言しているということだ。
これを裏付けるのは、NHKが06年8月15日に放送の「日本の、これから 『アジアの中の日本』」番組内で行われたアンケート結果だ。これによれば、「首相の靖国参拝をどう思う?」との質問では、20代・30代で「賛成」が実に72%に達し、逆に「反対」は28%、と若い世代で目立って首相を支持している割合が多かった。50代・60代以上では、「賛成」と「反対」が拮抗している。
これは、06年7月27日付の毎日新聞が掲載した世論調査で、「小泉首相の『8・15参拝』、次期首相の参拝ともに20歳代のみが賛成が反対を上回った」という結果と重なる。ネット上の「首相の靖国参拝支持」は、現代の若者の多くが持っている思想・感情を反映したものだ、といえそうだ。