NHKの橋本元一会長更迭の動きが密かに進められている。「指導力の欠如した橋本会長では正念場を迎えたNHK改革の実現は困難だ」と官邸が判断したもので、後任には大物財界人の名前があがっている。更迭の時期は小泉首相の退任する9月以降とみられている。
橋本氏は一連の不祥事を機に急増した受信料不払いによる経営責任を取って辞任した海老沢前会長の後任として2005年1月、専務理事・技師長から昇格。NHK会長は海老沢氏まで歴代9人いたが生え抜き5人、外部登用4人だった。生え抜き組は報道局、番組制作局を抱えた放送総局出身で、橋本氏は技術畑出身の初めての会長だった。
人柄の良さが取り得で、会長の器ではなかった
次期会長は誰だ
「橋本氏は海老沢会長以下トップ3人が辞めるという緊急事態になり、消去法で選ばれたピンチヒッター。本人も会長になるとは思ってもいなかったサプライズ人事。ハシゲンと呼ばれるなど人柄の良さが取り得で、会長の器ではなかった」(NHK幹部)
橋本会長が誕生して1年半経過した7月、NHKはトヨタ自動車の金田新専務を理事に起用すると発表した。橋本会長は「経営全般、業務改革について助言してもらう。NHKが持っていない資質を導入してほしい」と民間人登用に期待を込めた。
肝心のNHK改革は竹中総務相の私的懇談会の報告が政府・与党合意としてまとまり、政府の「06骨太の改革」に盛り込まれた。しかし、受信料の支払い拒否・保留件数は依然として100万件を超えている。そして、NHK職員の不祥事はあとを絶たない。
そうしたなかで飛び出した橋本会長更迭説。なぜ、今なのか。自民党郵政族議員はJ-CASTニュースに対しこう語る。
「橋本会長になって1年半もたつのに受信料不払いは減らず、不祥事は相変わらずで信頼回復の目処さえ立っていない。トヨタから人材を取ったからといって1人で改革はできない。いまはNHK改革案がまとまり実行に移す正念場。指導力ある会長が急務だ」
伊藤忠会長の丹羽宇一郎氏らの名前が挙がる
会長交代の動きはNHK内からも起こった。NHK会長の人事は経営委員会(石原邦夫委員長)が決めるが、現実には政府・与党、そして財界の意向が反映する。この経営委員会が8月3日、「NHKの経営責任を明確にするには会長の任期(3年)を短縮する必要がある」という見解を出した。これは橋本会長早期更迭の布石ともいえるものだ。
財界も動いた。「剛の海老沢会長から柔の橋本会長になり橋本氏の役目は終った。NHK改革は本番に入り再び豪腕が必要になった。NHK内には政治部出身者の起用など内部昇格説もあるようだが、外部の血でしかNHKの官僚体質は改革できない」(財界首脳)
新会長の候補は伊藤忠会長の丹羽宇一郎氏、セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文氏、ダークホースにソニー最高顧問の出井伸之氏。いずれも辣腕経営者で、鈴木を除くと「もう地位より名誉」という立場の人物だ。