ソフトバンクが、保有していた投資・金融会社、SBIホールディングスの株式(発行済み株式数の約27%)を全て売却、資本関係を解消したことが業界で波紋を広げている。両社とも「孫正義ソフトバンク社長と北尾吉孝SBI最高経営責任者(CEO)の盟友関係には変わりは無く、今後も投資事業などで連携していく」(関係者)と口を揃えるが、資本関係解消の背景には「ボーダフォン日本法人の巨額買収など孫氏が推し進める拡大路線に危うさを感じ、付いていけなくなった北尾氏が、ソフトバンクからの完全な決別を図った結果では」(市場筋)との見方が出ている。
孫氏、「盟友」北尾氏の忠告を無視
北尾氏はもともと約10年前に野村證券役員をしていた当時、孫氏からヘッドハンティングされた。その後、北尾氏は実質的な最高財務責任者(CFO)としてソフトバンクの国内外でのIT(情報通信)企業買収などを資金調達面や株価対策面で支えてきた。一方で、イートレード証券や投資ファンドなど金融・投資事業をSBI(ソフトバンク・インベストメント)グループとして自ら育成。05年6月にはソフトバンク取締役を退任し、SBI経営に専念する姿勢を示していた。
盟友の忠告を孫氏は無視した
06年8月初旬に行われた資本提携解消は、北尾氏のSBI独立路線の延長線上で、いわば必然とも言えるが、北尾氏が取締役を退任する05年6月のソフトバンク株主総会で語った内容を思い起こした関係者も多かった。孫社長に対する「最後の諫言」だった。
北尾氏は、ソフトバンクが従来の投資ファンド的な会社からADSL事業や日本テレコム買収など、通信会社に舵を切った「実業」路線への転換そのものは「正しかった」と評価した。しかし、株主の成長期待にもっぱら依存して投資を拡大し、赤字経営を続ける経営姿勢には「この先、投資を多少控えても黒字経営に変えないと、マーケットから受け入れられなくなるんじゃないか」と忠告した。
この盟友の忠告を孫氏は無視した。その後、携帯事業参入で約1兆7,000億円もの巨費を投じてボーダフォンを買収したからだ。市場の評価はというと、メリルリンチが投資レポートで「携帯事業ではこれまでのソフトバンクのタイムマシーン経営(欧米で主流となったサービスをいち早く日本に持ち込み、先行者メリットを享受するビジネスモデル)が通じない」と厳しく指摘。投資判断を格下げしたため、ソフトバンクの株価は7月下旬には一時、1株2,000円を割る水準まで急落した。
ソフトバンクを北尾氏が見限った?
「ボーダフォン買収で携帯では約1,700万人の契約者を一気に獲得し、グループ売上高も2兆円に達する飛躍ができた」と孫氏は力説するが、第3世代(3G)携帯への切り替えのための基地局整備など投資負担がかさみ、株価を圧迫される姿はまさに北尾氏の”予言”通りにも映る。
ソフトバンクはSBI株の全株を1,360億円で売却し、650億円の売却益を得たが、それも借入金返済に消える。投資資金がかさみ、収益の波が激しいIT企業にとって、本来、安定的な収益が稼げる金融事業はグループの安定的な経営にとって欠かせないはず。しかも、ネット証券分野などでは業界トップ級にまで育ったSBIグループとの資本関係解消は、本当に孫氏の本意だったのか。業界関係者の間では「巨艦主義に走るソフトバンクの経営の将来性を危ぶんだ北尾氏が孫氏を見限った」とのうがった見方も広がっている。