日産自動車・ルノーとGMとの提携交渉の先行きと「効果」について、部品会社、販売店から業界他社、アナリストにまで懐疑的に見ている。にもかかわらず、ゴーン氏だけはやけに積極的だ。
ゴーン氏は提携交渉をどう進めるのか
「もしチャンスがないと思ったら提案を受けることはなかった。機会があるかもしれないと思ったからトライした」―日産自動車とルノーのカルロス・ゴーン社長は2006年7月21日、東京の日産本社で会見しGMとの提携に自信を見せた。GM最大の個人株主が提唱して始まった自動車業界最大の提携協議。まず90日間に期限を区切ってシナジー(相乗)効果を検証しGM、日産、ルノーそれぞれのメリット、デメリットをはっきりさせる。資本参加など提携の姿を議論する第2段階に進むかどうかはゴーン社長、GMワゴナー会長のトップ同士がどのように折り合いをつけるかにもかかってくる。
GMワゴナー会長との温度差
「まとまったとしても提携効果を出すには時間がかかるだろうし引き出すこともきわめてむずかしい」―日産・ルノー連合の内情を知る関係者はこう話す。サプライヤー(部品会社)、ディーラーから業界他社、アナリストに至るまで大方は懐疑的に見ている。ただ、ゴーン氏は「少しでもリスクがあれば懐疑的な論調は出るものだ」「(日産・ルノー提携の)7年前に比べればよほど周りの評価はいい」と意に介さず、変わらぬ熱い調子でまくしたてる。
今回の協議には攻勢をかけるゴーン氏、守勢にまわるワゴナー氏のイメージがついてまわる。自らの株主と競合他社のトップから協議のテーブルにつくよう強いられただけでなく、自ら計画した大リストラ策に復活を賭けているのだから横やりを入れられたワゴナー氏が提携に気乗りしないのも無理はない。
それだけではない。2人にはアライアンス(連合)により成功を収めた者と、アライアンスにいい思い出がなく、撤収を決断した者という違いがある。この違いもまた、1,500万台に達する巨大連合への温度差を生んでいる。
ゴーン氏は「敵対的な動きは一切しない」
日産とルノーは99年3月に提携すると、「クロス・カンパニー・チーム(CCT)」というシナジー検討チームを4分野7地域について設定した。互いに持てる経営資源を活かす道を探り、共同購買、プラットフォーム・エンジン共通化など協業を進めた。今回、GMとの間でも同様のチームを3社から専門家を出してセットし検討を行っている。
それに対してGMのアライアンスへの姿勢はよくいえば鷹揚、悪くいえば甘かった。富士重への出資はとくに効果を発揮せぬまま05年に解消。同年、経営が悪化したフィアットと手を切るために2,100億円の違約金を支払った。
これまでアライアンスで成功してきたからといってゴーン氏が今回もうまくやるとは限らない。まず、自主再建にこだわるGMが提携を断るかもしれない。つぎに、提携したとしてGMの高コスト体質や労組の反発、サプライヤーであるデルファイの再建問題などが日産・ルノーを巻き込む可能性もある。
ゴーン氏は「敵対的な動きは一切しない」と、あくまで合意のもとの連合しか意図しないことを強調した。加えて「私は日産、ルノー以外のCEO(最高経営責任者)候補ではない」「GMはアメリカのアイコン」と気配りをしてみせた。
口八丁手八丁のゴーン氏に47歳の若きエリートとしてCEOに登り詰めながら「おっとりした男」と評されるワゴナー氏がどう応じるのか。見ものではある。