日本経済新聞社の社員によるインサイダー取引事件で、証券取引等監視委員会は2006年7月25日、同社広告局員(31)を、証券取引法違反容疑で東京地検特捜部に告発した。特捜部はこれを受け、同日午後にこの社員を逮捕した。業務を通じて知った企業公告情報を悪用したインサイダー取引だけに、日経としては信用問題にかかわる重大事犯で、杉田亮毅社長が辞任するかどうかの瀬戸際にきている。
インサイダー取引で日経本社は揺れている?
日経新聞のインサイダー事件は、東京本社広告局の男性社員が広告局の共用パソコンに入った法定広告の掲載予定表から、値上がりが見込みやすい情報を盗み、東証1部上場銘柄を含む数社の株売買で、約3,000万円の不正な利益をあげていたというもの。値上がりが見込める株式分割の法定公告を狙って盗んでいた。利益はこれ以上に達する、という説も社内ではささやかれている。
不正を働いた社員、他にもいる?
企業法定公告は、経営に関わる重要事項を株主や債権者に知らせるため、新聞などに掲載するよう全株式会社に義務付けられている。ただし、複数紙に掲載する必要はなく、株主がよく読むという理由で、日経新聞がほぼ独占状態だという。それだけに日経新聞の責任は非常に重い。
06年7月18日の朝日新聞朝刊は「共用パソコンに接続するためのパスワードは広告局内で共有されており、簡単に未公表情報を閲覧できた」と報じ、管理のずさんさを指摘した。
そうなると、広告局の社員の多くは広告情報にアクセスできるわけで、1人だけの犯行なのか、という疑問が出てくる。
「不正を働いた社員が他にもいたことがわかれば、杉田社長は辞任だろう」と日経新聞社内ではうわさされている。
子会社でも不祥事ぞろぞろ
実は、他にも不祥事はある。05年11月に日本経済新聞社の子会社「ティー・シー・ワークス」(TCW、東京都)の元社長らに有罪判決が下った。架空工事を建設会社に下請け発注したかのように装い、手形を乱発した背任事件だ。さらに、04年5月ごろ、日経新聞社が出資していた広告会社の元営業局長が、やはり株式分割の情報を公表前に入手し、インサイダー取引をした容疑で告発された。06年7月7日に有罪判決が下った。これだけ不祥事が続いているにもかかわらず、今年2月に事件が発覚した時、担当の蔭山孝志常務の辞任を発表したが、自らに課したのは役員報酬の3カ月間全額カットだけだった。「後継者がいない」ことが辞任できない理由、などと社内ではいわれているという。
そこへ、今回のインサイダー事件が拡大すれば、杉田社長の立場はますます苦しくなり、辞任は避けられない、というわけだ。