全てのデジタル機器をつなぐ次世代通信ネットワーク(NGN)をめぐって、複雑な争いが展開されそうだ。総務省、NTT、ドコモ、それぞれが違った思惑を持っているからだ。
東京・霞ヶ関の総務省。次世代通信ネットワークはどうなるのか
ブロードバンド(高速大容量通信)が全国的に整備される2010年に向けた通信市場の新たな競争ルールのベースとなる「新競争促進プログラム2010」が公表された。NTTグループが08年度の商用化を目指すIP(インターネット・プロトコル)網で固定電話や携帯電話、パソコン、情報家電など全てのデジタル機器をつなぐ次世代通信ネットワーク(NGN)について、他の通信事業者やコンテンツプロバイダーなどへの包括的な開放義務を課したのが目玉だ。
通信のIP化の進展に対応したNGNに関しては、KDDIやソフトバンクグループも計画を打ち出しているが、全国的なNGNを現実的に整備できるのは、体力に優るNTTだけと見られている。実際、NGNの基幹設備となるのは光ファイバー回線。NTTは2010年度までに全国3,000万世帯に光ファイバー網を敷設する戦略を着々と進めているが、KDDIは東京電力との提携を発表しただけ。ソフトバンクに至っては、自前の光ファイバー戦略を明確には示せていない。
総務省はNTTの「市場支配力」を警戒
そんな中、総務省幹部は「NTTがNGNのインフラ独占を背景に次世代通信市場で市場支配力を乱用することを懸念している」とJINビジネスニュースに明かす。特に、ISP(インターネット・プロバイダー)事業や、高画質・多チャンネルの動画コンテンツ配信などの分野にまで支配力を拡大することを警戒している。
例えば、NGNを核に、NTTがPCのマイクロソフトや情報家電のソニー、松下電器、ハリウッドの映画産業などと「強者連合」を組めば、KDDIなどライバル事業者や多くの独立系のコンテンツプロバイダーが次世代通信市場での競争で圧倒的に不利な立場に立たされると見ている。
また、総務省がNGNでのNTTの市場支配力を強調し、当局の介入の必要性をアピールする背景には、旧郵政官僚の権力維持の狙いも垣間見える。郵政事業が民営化される中、NTTへの規制権限は旧郵政官僚にとってレーゾンデートル(存在意義)とも言える。市内と長距離、国際などの距離や、固定と携帯など端末の別を問わず通信のネットワークが統合されるIP時代に対応する戦略を打ち出すのに、当局としても必死なのだ。