ソフトバンクが携帯電話の拡販戦略の切り札と位置づけているのが、アップル・コンピュータとの提携だ。孫社長がたびたび訪米して折衝を重ねているが、交渉は難航している。
ケータイにiPodは搭載されるのか
「NTTドコモやau(KDDI)は大きなブランドと力を持っているが、ソフトバンクがヤフーやイー・トレードといったグループ企業とシナジーを出していけば十分凌駕できる」。孫正義ソフトバンク社長は2006年6月下旬の株主総会で、ボーダフォン日本法人を買収して参入した携帯電話事業での勝算あり、をアピールした。
孫社長はドコモのiモードやauのEZwebなど携帯用サイトを介さずに、インターネットに直接つながる「フルブラウザ携帯電話」の開発の重要性を強調した。
「携帯端末にヤフーボタンを付けて、世界のインターネットに自由につながるようにしたい」
と語った。そのうえで、携帯会社を変えても電話番号がそのまま使えるナンバーポータビリティ制度の10月開始をにらみ「万全の体制で臨み、絶対に結果を出す」と”必勝宣言”した。
赤字を垂れ流してもシェア優先という戦略は取れない
しかし、孫社長の意気込みとは裏腹に、ソフトバンクモバイルのドコモ、au追撃戦略は必ずしも順調に進んでいるとは言えない。
ボーダフォン買収に要した資金の借入金は1兆7,500億円。9月までに融資銀行団との間でパーマネントローン契約に切り替えることになっているが、「この際、厳しい財務制限条項が付けられる」(欧米系銀行)とみられる。つまり、赤字を垂れ流してもシェア獲得を優先して成功したADSL事業のような低価格戦略は携帯事業では行う余地がない。
そこで、ソフトバンクモバイルの拡販戦略の切り札と位置づけられるのが、アップル・コンピュータとの提携だ。孫社長と米アップルのスティーブ・ジョブス最高経営責任者(CEO)との個人的な親密関係もテコに、アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」を搭載した携帯電話を市場投入しようというものだ。実現すれば、“当面の敵”である「au」との顧客争奪に大きな力になる。
アップル側には「iPod」携帯のメリットはない
このため、ボーダフォン買収を決めた06年3月末以降、孫社長がたびたび訪米するなどして交渉を重ねているが、交渉は難航。アップル側からすれば、よほど高いライセンス収入でも得ない限り、「iPod」をソフトバンク携帯に置き換えるメリットはないためで、実現のメドが立っていない。「iPod携帯」構想は実は、ドコモが以前に検討したことがあり、「そのときも条件が全く折り合わず、交渉は早い段階で決裂した」(NTT関係筋)という。
マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は08年に経営の第一線から退くと宣言した。これに関連し、株主総会で今後の経営者としての展望を聴かれた48歳の孫社長は「50代で事業を完成させ、60代のどこかで次の経営陣にバトンを渡したい」と語った。競争の激しいIT業界の覇権ゲームで、ゲイツ会長のように孫社長も「勝ち上がり」できるか、ソフトバンクモバイルの成否に掛かっていることだけは間違いなさそうだ。