シンドラーエレベータによる港区の高校生死亡事故は、エレベーターの心臓ともいえる制御盤の不良である疑いがますます強まっている。「事故は保守点検会社の不始末」との姿勢を崩さなかったシンドラー社だが、自社の責任を認めざるをえない状況下に置かれてきたようだ。
2006年6月14日の記者会見では、港区の「シティハイツ竹芝」のように、扉が開いたままエレベーターが動く故障が国内で4基、6件あったことを明らかにした。いずれも96~97年ごろに設置され、事故機と同タイプの制御盤を使っていたという。警視庁も制御盤が不具合だった可能性を含め捜査を始めた。制御盤はエレベーターの心臓部と言われ、マイクロプロセッサ(マイコン)が収納されている。モーター、ドア開閉装置、信号装置など様々なかごの動きを制御する。ここに何が起きていたのかが、最大の焦点だ。
メーカーに修理依頼は深刻事態
スイスのシンドラー社本社。同社製品の制御盤に問題はないのだろうか
死亡事故のあった「シティハイツ竹芝」の保守点検を担当していた日本電力サービスが、06年1月30日、シンドラー社に修理を依頼していたことが明らかになっている。依頼は日本電力サービスが住民から「地下1階に到着してもドアが開かなかった」、という苦情を受けたことから始まる。日本電力サービスが独自に点検したものの原因がわからない。それでシンドラー社に修理を依頼した。修理して1ヶ月経った06年3月。日本電力サービスは故障原因をシンドラー社から電話で知らされた、という。
大手新聞社の報道などによると、「制御盤とエレベーターを繋ぐ電線に断線があった」というものだった。
保守点検会社は「断線」すら発見できないのか。だとすればとんでもない会社だが、普通はありえない話だ。
JINビジネスニュースでは日本電力サービスにこの疑問をぶつけてみたが、「捜査が入っているため、マスコミにコメントできない」と答えるだけだった。
「メーカーに保守点検会社が修理を依頼するという場合は、相当な危険が迫っていたと考えられます」
そう明かすのは都内のエレベーター保守点検会社の社長だ。JINビジネスニュースの取材に匿名を条件に応じた。
心臓部である制御盤だけは触れない
社長によれば、保守点検会社がメーカーに修理を頼ることは殆どないという。人命を預かる仕事のため、この会社は、エレベーター会社OBなど熟練した社員を揃え、点検、修理、部品、作動のプログラミングなどあらゆる技術、知識を有し対応している。
「メーカーに修理を頼るようなら、我々のような会社の存在理由はないのです。だからどんな故障も発見し修理できます」
ただし、触れない部分があるという。それは「心臓部である制御盤。企業秘密になっている」(社長)からだ。そのため、日本電力サービスがシンドラー社に修理を依頼したのは、制御盤の不良を疑って連絡したのではないか、と推測してもそれほどおかしくない。この社長も「電線の断線すら発見できないなら、保守点検業界全体の信用がなくなる」と話す。
しかし、シンドラー社は修理した後に、こう電話で説明している、という。「制御盤とエレベーターを繋ぐ電線に断線があった」。さらに、「修理は完了しましたので、区住宅公社には報告しておきました」。「シティハイツ竹芝」は港区の集合住宅だからだが、区には何の報告もしていないことが後に発覚する。
制御盤を巡るシンドラー社の説明は今後どうなるのか。事件が起きてからのシンドラー社の説明、広報の内容は、こんな具合だった(一覧表参照)。