死亡事故を起こしたエレベーターの製造元であるシンドラーエレベータ(江東区)製のエレベーターのトラブルは全国に広がっている。自治体や地下鉄など公共施設がほとんどだ。なぜなのか。
シンドラー社のエレベーターに閉じこめられた人を救出している(06年4月24日、東京工業大学すずかけ台キャンパス)。同様の事例次々と明らかに
シンドラー社製のエレベーターで、トラブルが確認されているのは東京・神奈川・埼玉・宮城・愛知・滋賀・山口・福岡・長崎の1都8県。
「佐世保市黒髪町の県営黒髪団地で4月23日、シンドラー社製エレベーター内に女性(37)が約1時間閉じこめられる」「名古屋市昭和区の市営住宅で05年11月に途中停止し、住民2人が30分程度閉じこめられた」(朝日新聞)。「福岡市営地下鉄駅エレベーターで、昨年12月に乗客が約40分間閉じ込められた」(共同通信)。「さいたま新都心合同庁舎の3基でドアが開きっぱなしになるトラブルが4件起きていた」(産経新聞)などだ。
東京では地下鉄「大江戸線」もエスカレーターはシンドラー社製だが、トラブルはまだ報告されていない。
死亡事故があった「シティハイツ竹芝」(地下2階、地上23階建て)も、東京都港区の施設だ。
コスト削減を進める行政と利害が一致した
このように、行政や公共機関の施設ばかりが目に付く。何故なのだろうか。
今回の事故の担当である港区都市計画課の島崎勝由(かつよし)さんはJINビジネスニュースの取材に対してこう話す。
「エレベーターを選択する場合、性能と価格のコストパフォーマンスで決めるわけですが、シンドラー社の提示した価格が他社よりも低かったと聞いています」
シンドラー社は世界では世界2位、エスカレーターでは世界1位のシェアがあるとされる。にもかかわらず、日本でのシェアは1%しかない。
「シェアを伸ばすための戦略として低価格の設定をした。コスト削減を進める行政とそこで利害が一致したのではないか」
エレベーター業界ではこう見ている。
港区は2006年6月5日と6日、不安を抱える住民への説明会を開いた。約100人が集まったが、シンドラー社は出席を拒否した。出席していた武井雅昭区長が同社の担当者に携帯電話で連絡しても「捜査に影響する可能性がある」と態度は変わらなかった。区はこのエレベーターについて、月2回の検査と、法定に準じた年1回の検査をしていた。検査ではわからない本質的な欠陥がある可能性が高いという。
シンドラー社は行政にも回答を拒否
「シンドラー社には文書での回答も求めていますが、完全無視のような状態。だから何もわからないのです」
と前出の島崎さんは戸惑いを隠せない。
沈黙を続けるシンドラー社。「シティハイツ竹芝」の住民は怯え、そして憤っているという。エレベーター利用を止める住民も多く出ている。23階など高層からの上り下りは厳しい。区では24時間体制で各フロアの階段に職員を立たせ、安全確認や荷物運びの補助を始めている。
国土交通省は全国の自治体を通じ、シンドラー製のエレベーターの事故発生状況などの調査を決めた。