東京都港区の住宅公社マンション「シティハイツ竹芝」のエレベーターに高校生が挟まれて死亡した。問題のエレベーターには、以前からトラブルが絶えず、様々な「前兆」があった。同様の事例が実は東工大キャンパスにもあった。同じようなトラブルを起こし、しかも製造元が同じなのだ。
2005年10月04日、大手SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、mixi(ミクシィ)上のコミュニティーに、こんなスレッドが立った。東京工業大学すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)に05年6月に完成した総合研究棟(J2棟)に設置されている、シンドラー社製エレベーターの動きがおかしいというのだ。「ボタンを押してから、実際に来るまでに時間がかかる」という苦情に始まり
「おもしろい音がする」 「パネルの23階が表示される(J2棟は20階までしかない。)」 「エレベーターは3つ並んで設置されているが、それぞれの『能力』が異なる。」
などと、おもしろ半分な書き込みを含む「状況報告」が続き、書き込みは5月末までに200を超えた。
シンドラー社を皮肉って「シンドラー学」という言葉さえ登場
あまりの動きのおかしさに、このエレベーターを製造したシンドラー社を皮肉って「シンドラー学」という言葉さえ登場した。 だが、死亡事件が起きて「笑えなくなってきました。」と、スレッドの雰囲気が一転。スレッド内で報告された事例をまとめ、教授をとおして、学内の「安全管理室」に安全対策を訴えることになった。これまでに発生したトラブル件数、8ヶ月で少なくとも22件。死亡事故が起こったエレベーターの「過去3年間で少なくとも41件」を大きく上回る。トラブルの内容も、
問題の東工大のエレベーター。ケーブルがはみ出ており(06年3月6日)、港区の死亡事故と似ている
「中央エレベーターで10分間学生が閉じ込められる。ずっと停まっていたわけではなく,非常にゆっくりと上昇。 約15分かけて9階まで上がり、そこで同乗していた方が無理やりドアを開けたら警報が鳴って、10階で何事も無かったかのように学生を解放。」 「学生が7人ほど、閉じ込められる。外側のドアのみしまり、内側のドアは閉まっていない。 『開』、『閉』ボタンを押すも無反応。外部と連絡をとり、指示に従いすべてのボタンを押すも無反応。最後は腕力。その間およそ10分。」
06年6月3日に死亡事故を起こしたエレベーターは、「シンドラーエレベータ(東京都江東区)」が製造した。東京工業大学すずかけ台キャンパスもシンドラー製だ。 また、港区の住宅公社マンションもこれまでに41件の故障・トラブルが発生していたことが分かっているが、故障の内容は「数十分にわたって中に閉じこめられる」「正しい位置に止まらず、到着階に着く前に停止する」などで、東工大と酷似している。
マスコミから「同様の事例があると聞いている」という指摘が相次ぐ
今回のような悲劇が繰り返されるリスクはないのだろうか。製造元と、保守・点検を担当した「エス・イー・シー・エレベーター(東京都台東区)」の2社にJINビジネスニュースは取材を試みた。 エス・イー・シー社は今回の事件について、ウェブサイト上で事故機と同機種のエレベーターと、シンドラー社製のエレベーターについては最優先に点検することを表明しているが、「具体的な対応は現在、役員レベルで検討中。できるだけ早く発表する」と述べるにとどまった。今回と同様のケースがあるのではないのか、という質問に対しては、「事件前には、『戸開走行(とかいそうこう、扉が開いたままエレベーターが上下に動いてしまうこと) 』のような、危険な事例の指摘が来ることはなかった」としたが、マスコミからは「同様の事例があると聞いているがどうなのか」という指摘が相次いでいることを明かした。顧客からの危険な故障の指摘はないが、マスコミ経由で危険事例が伝わって来ている、ということのようだ。 一方のシンドラー社。ウェブサイト上のプレスリリースで「事故が起こった経緯につきましては現在警視庁が捜査をしている最中でございますので当社からのコメントは差し控えさせていただきます」と、ノーコメントの旨を表明している。JINビジネスニュースでは複数回取材を試みたが、「担当者がいないので分からない。いつ戻ってくるかもわからない」と繰り返すばかりだった。