摘発の噂だけで「臆病なカネ」は、逃げ出す
TBSに続き、阪神電鉄の買い占めで、注目を集める村上ファンドは狙い打ちの対象になる、という観測は市場にも流れている。
ファンドの特性として、なんらかの事情から摘発を受ければ、そこのカネを預けている顧客に波及することは避けられない。
そうした噂だけで「臆病なカネ」は、逃げ出す。村上ファンドの大きな顧客は、著名財界人であるオリックス会長の宮内義男がいる。村上の主張する「物言う株主」という主張に理解を示し、相当規模の資金を村上に任せていた。
しかし、今回の一件でオリックスはファンドから手を引いた、とされている。
村上が手がけた東京スタイル、ニッポン放送、TBSいずれも、高値売り抜けに成功し、村上ファンドは投資利回り20%という好成績である。村上ファンドが買っている、というだけで株価は上がる、という昨今だ。
ファンドに運用を委託する投資家はどんどん増えている。しかし、あまり派手に動けば世間を敵に回し、当局も無視できなくなる。この辺が潮時、と考えたのではないか。シンガポールに移って、しばらく逼塞(ひっそく)して投資戦略を練る。外資の誘致に熱心なシンガポールの金融当局なら、「狙い打ち」はあり得ない、と見たのだろう。だが、どこに居ようと村上ファンドのホームグラウンドは日本の株式市場だ。阪神電鉄株は、すでに50%近くを村上のファンドが買っている。阪神と経営統合する阪急が肩代わりすることで決着しそうだ。その利益は、日本の国税当局ではなくシンガポールに移る。自分を受け入れない日本には税金を払いたくない。それが村上流の「さらばニッポン」なのかも知れない。
文: 山田厚史