グーグルなど、ネット検索型のクリック広告の不正が大きな問題として浮上している。不正クリックか、そうではないかを見分けるのが難しいうえ、いったいだれが不正をしたのか追及することができないからだ。業界では、不正行為について各社共通のガイドラインを作ろうと動いているが、防止の決め手はなく、「不正はある程度は出る、と割り切って考えるしかない」と明かす運営者もいる。
ネット広告業界が立ち上げたばかりの「日本アフィリエイト・サービス協会」。不正クリックにどう立ち向かうのか
企業や個人がネット検索型広告で広告収入を得るには二つの方法がある。一つは、ホームページ上の広告部分のクリック回数だけで収益が決まる「CPC」。もう一つが、クリック後に商品を購入するか、資料請求するとお金が支払われる「アフェリエイト」。グーグルのアドセンスなどはCPCに入る。 電通によると日本のネット検索型広告費は2005年で590億円。前年の1.8倍になった。このうち約70%をCPCが占めている。
不正が意図的かどうか "心の中"までは覗けない
アウンコンサルティングのマーケティンググループ・リサーチチーム岡田吉弘マネージャーは、「広告を掲載するコンテンツがブログを中心に増えていること。商品との連動が条件のアフェリエイトに比べ、CPCの方が広告ジャンルが広いのも大きい」と話し、今後もCPCは飛躍的に拡大していくと見ている。
ただ、CPCはクリックだけという手軽さのため、アフェリエイトに比べ、不正が多く、それが大きな問題になっている。
「ネット検索型広告の不正クリックに広告費を支払っているのは不当だ」―――グーグル、ヤフー、ライコスなどが米アーカンソー州裁判所に05年2月に集団代表訴訟された。グーグルは不正の可能性を認め、06年3月に9,000万ドルの和解案を提示した。世界最高の技術者集団と言われる同社でも、不正クリックかどうか見分けるのは困難なのだ。
会社の収益の99%を広告収入で得ているグーグルは、対策として独自の基準で不正と判断したものについては、ユーザーへの連絡も無しに突然アクセスを切る。これは"グーグル村八分""アドセンス狩り"と呼ばれる。不正をした覚えのないユーザーは困惑するが、これも不正を牽制するための"脅し"としては有効なのかもしれない。
「Web検索エンジンGoogleの謎 アフィリエイト編」などの著書がある水野貴明氏は、こう話す。
「グーグルなどのCPCの歴史は浅く、不正を見抜くための経験値がまだ足りない。ましてや、パソコンの前にいるユーザーが、意図的かどうか "心の中"まで覗けない」。
不正防止のための業界団体はできたが...
例えばライバルのサイトや広告を悪意でクリックしまくれば"ぶっ潰す"ことも可能なのだ。 あきらかに個人が1つのIPアドレスからクリックしまくっている場合は警告することは容易だが、急にクリックが増え、怪しいと感じただけで"犯人"扱いはしにくいというのだ。CPCとアフェリエイトの両方を扱う代理店担当者はあきらめ顔でこう話した。
「ほとんど野放し状態なんです」
水野氏は「悪意を持ってクリックする人は日本では少ないと思うが、信頼を得るためにも、業界を挙げて技術開発や法的整備を進めなければならない」と話している。
そうした中で、06年5月16日、バリューコマースやファンコミュニケーションズといったネット検索型広告会社大手7社による「日本アフィリエイト・サービス協会」が設立された。急速に拡大するネット広告業界の健全な成長を目指し、一般消費者、アフィリエイト契約者、広告主を保護するための不正行為の監視および情報の交換などを行うものだ。不正クリックなどの取締りと防止策が重要課題として取り上げられるのは間違いない。
同協会設立を主導したバリューコマースは、「まずは不正行為について各社共通のガイドラインを作ろうと動いている」と話す。しかし、各社それぞれ不正行為の基準が異なり、ガイドライン決定後には約款を変更しなければならない。不正者のブラックリスト交換については個人情報保護法の壁もある。業界を挙げての不正防止への道のりは容易ではないようだ。