卵かけご飯がブームになっている。専門店も登場し、味付けに使う専用醤油の生産が追い付かない。昔からある日本食の「ファーストフード」が、突如リバイバルしたのはなぜか。
食へのこだわりなのか、鳥インフルエンザの影響があるのか。謎を追ってみた。
島根県で開かれた「日本たまごかけごはんシンポジウム」。すでに第2回目の開催が決定している
和歌山県有田郡金屋町のカネイワ醤油本店で、「卵かけご飯の醤油」を作り始めたのが約7年前のことだった。関西の百貨店の催事にダシ醤油を出展したところ、催事担当者から「生卵に使ったら売れるのでは」とアドバイスされた。もしや、と専用の新商品を開発したが販売当初はさほど売れなかった。
売れ始めたのは2年ほど前。口コミで飲食店や旅館などに販売が拡大した。ブレイクしたのは2005年からだ。05年12月には醤油味の濃い関東風味の新製品も出した。
インターネット販売の後押しもあり、「生産が追い付かない状態。今年のゴールデンウイークだけで3,000本近くが売れた」と同社の岩本行弘専務は話す。1本の値段が200mlで420円。「1本に600円の送料をかけて買う人もいて、ありがたいやら申し訳ないやら」。
ブームが全国に拡大したのは島根県雲南市吉田町で05年10月に行われた「日本たまごかけごはんシンポジウム」がきっかけだった。旧吉田村が市町村合併で雲南市になってしまうため、「吉田村を埋もれさせないための存在価値作り」として企画された。
専用しょうゆは「1ヵ月以上待ち」
10月30日を「たまごかけごはんの日」と定め、卵がけご飯に関するレシピや作文、論文の審査などが行われ、マスコミでも大きく取り上げられた。
すると、「イベント終了後にとんでもない状態になった」(吉田ふるさと村)。シンポジウム事務局の2回線の電話が、卵かけご飯の問い合わせで1日中鳴りっぱなし。「通常の電話ができない。電話が繋がらないから、役場や商工会議所にまで問い合わせが続いた」。
島根は米、卵の産地で、いい材料に恵まれた。さらに、卵がけご飯用の醤油があった。そんな背景もあって、ふるさと村の醤油は05年11月時点で約30万本の大ヒットに。06年5月で累計60万本にも達し、「お取引先に1ヵ月以上待ってもらっている。本当に申し訳ない」(同)という状況なのだ。
大阪市難波の和風レストラン寸菜太福では05年12月から客の行列ができるようになった。この店は米1合から釜で炊く“銀シャリ”がウリなのだが、客のお目当ては卵がけご飯。「ご飯を注文されたお客さまの90%以上が卵を注文してご飯にかける」と同店では話す。
スーパーで売られている卵は1個20円から30円。ここでは、卵1個の値段は315円。それでも、お客が高いと感じている様子はないという。