日本航空グループの役員らが新町敏行社長ら3人に辞任要求した内紛は、北側国土交通相が苦言を呈するなど、大騒動に発展している。ライバルの全日空に乗客を奪われ、経営実績も大きな差がついた。背景には日航の「悪しき伝統」の派閥抗争もあるが、日航低落の根はもっと深い。
新町社長らに退陣を要求したのは日航インターナショナルの深田信常務ら役員4人。赤字や無配転落など経営不振を理由として日航グループ企業の管理職約50人の署名を集めた。これに先立ち、個人筆頭株主の糸山英太郎氏も新町社長の退陣を要求した。
日航は昔から内紛の絶えない会社だった。営業部門と管理部門の2大派閥があって、主導権をめぐって何種類もの怪文書が飛び交い、政治家や運輸官僚らを巻き込んだ紛争を何度も繰り返してきた。
新町社長に営業部門が反発して対立激化
JALグループで活躍中のボーイング747-400型機
今回の内紛のきっかけは、2005年から相次いだ運航トラブルなど一連の不祥事の責任を取って兼子前会長が辞任してからだった。後継者の新町社長は貨物という社内基盤の弱いセクションの出身で管理部門寄りとみられた。これに営業部門が反発して対立が激化した。
新町社長は就任後、国際線の縮小や平均10%の給与カットなどリストラ策に乗り出したが、労働組合の反対などがあって思うように出来なかった。日本エアシステムとの統合問題の余波もリストラの遅れにつながった。
一方、全日空は財務の健全化などリストラ策を着実に進めた。2005年4-12月連結決算では日航から全日空に乗客が流れた「JAL特需」で50億円の増収を達成したほど。日航の06年度3月期決算は約320億円の収入減と原油高による燃料費アップなどで470億円の大幅赤字になる見通し。
日航のリストラが進まず大幅赤字に陥った原因はどこにあるのだろうか。航空ジャーナリストは3つの原因をあげた。
派閥抗争で社員の士気は低下している
1つは、前述したように派閥抗争による社員の士気の低下。トップの派閥にいれば、そのトップがいる間は安泰だ。しかし「いつ寝首をかかれるか、わからない」状況があるうえ、人事異動も頻繁になり仕事に身が入らない悪循環が繰り返される。
2つめは、9つもある労組の存在。給与カットに反発するだけでなく社長退陣まで求める組合もある。「親方日の丸」という意識で危機感が希薄だ。組合を強くしたのは会社にも責任がある。御用組合をつくらせ、労組の力を削ぐことに傾注してきた。
3つめは旧日本エアシステムとの統合。システムやマニュアルの統合が思うように進んでいない。旧日本エア社員を人事面で冷遇しており、彼らの間に不満が出ている。今回の社長退陣要求の背後には旧日本エアの役員や幹部の"後押し"があるともいわれる。
この航空ジャーナリストは「いまの日航は社長が交代したくらいで経営再建はできるとは思えない。それこそ日産やソニーのように外国人社長を持ってきて企業風土から一新しないと駄目だ。まして内紛騒動をやっている時間などない」と述べている。