ライブドアの評判はIT業界の中でもさんざんだった。「うさんくさい」どころか、「悪辣商法」というレッテルが貼られていた。「あそこと商売するな、騙されるから」。数年前から、そんなマル秘情報が業界を飛び回っていた。
エッジからライブドアに社名変更した2004年2月以前の話だ。渋谷に本社があるITベンチャー企業にエッジの営業マンがやってきた。主力製品の販売を代理店としてやりたい、という申し出だった。OKすると、システムの細部やノウハウまですべてを公開してほしい、というのだ。
ベンチャー企業の社長は、瞬間的におかしいと思った。代理店がそこまで必要か、という疑問だった。ただ、「製品のことをすべて分かっていないと、自信をもってお客に勧められない」。そんな言葉に負けてしまった。
その後、代理店としてエッジは製品をほとんど売ってくれなかった。それどころか、数ヶ月すると、そっくり真似した製品がエッジから発売されたのだ。
「あそこと商売はしないほうがいい」
ITベンチャーの若手経営者はお互い仲がよく、情報交換も頻繁にしている。そんな席で、この悪辣商法の件を明かすと、「おたくだけじゃないみたい。あそこはいろんなうわさがあるんだよ。商売はしないほうがいいよ」という返事が返ってきたという。
ライブドアはIT企業としての実態がない、とよく言われるが、当時から自前で開発するより、そっくり真似するほうが効率がよい、と考えていたようだ。M&Aで企業を買収するのと似た思考方法だ。
今から振り返ってみれば、真相はまったく違うのではないか。そんな「脅迫事件」がある。
「あ、もしもし、松尾です。あんまり遊んでると、おまえの会社ぶっ潰しちゃうよ。おれは本気になるぞ、お前。それじゃな」
ヤクザまがいの脅しの声が、ライブドアのホームページ上で公表された。「犯人」とされたのは、インターネット銀行「イーバンク」の松尾泰一社長。公開したのは、ライブドアの宮内亮治容疑者だった。当時、宮内容疑者は憤然とした面持ちで、「私の携帯電話の留守番電話に録音されていたものです。着信履歴には松尾社長が通常使っている携帯電話の番号が残っており、彼の声であるのは間違いありません」と話していた。
ヤクザまがいはどっちだ
ライブドアは2003年9月 、イーバンク銀行と資本提携。その後両社間に摩擦が生じ、紛争中の最中、2004年2月に起きた「事件」だった。
週刊誌を中心に、マスコミは当時、「泥仕合」と報じ、どちらかというとライブドア側にたった。しかし、本当にそうだったのだろうか。
松尾社長はこの留守番電話の音声について、 「私の声ではない」と強く否定していた。宮内容疑者の携帯に電話したことはあった。ライブドアが得意のIT技術を使って、録音された声を切り貼りして音声を捏造したのではないか。そんな疑いを強く持っていた。イーバンク社員も、ライブドアから出向してきた社員のやり方に反感を募らせていた。 「ヒアリング」と称してイーバンク社員を呼び出し、バカだのアホだのと吊るし上げをしたからだった。イーバンク社員はこの「録音事件」についても、ライブドア側の「陰謀だ」と信じていた、という。
2004年10月、両社は和解契約を結び提携解消したため、真相は明らかではない。ただ、このときもIT業界では、「ライブドアなら偽造もやりかねない」との見方が大勢だった。