関東地方にはフジ、TBS、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京の5つの民放テレビがある。このうち、フジに続き今度はTBSの株式がインターネット系企業によって買い占められた。なぜ、放送局はネット系企業のターゲットにされるのだろうか。
テレビ局の買収を試みたネット企業2社(ライブドア・楽天)が入居する六本木ヒルズ.
TBS株式の15%を取得して筆頭株主になったのはネット上で商品を売り買いする仮想商店街で業界トップの楽天(三木谷浩史社長)。楽天は05年10月13日、TBSに対して共同持ち株会社の設立による経営統合を提案、さらにTBS株を19%まで買い増した。
楽天は1997年、三木谷氏が設立。2000年の株式市場のジャスダックに上場、積極的な企業買収で金融や旅行業などに事業を拡大していった。2004年にはサッカーのJリーグ「ヴィッセル神戸」とプロ野球の「東北楽天ゴールデンイーグルス」のオーナーになった。2004年12月期の売上高は455億円、営業利益は150億円。時価総額(10月14日現在)は1兆390億円。総資産は1兆2969億円。従業員数は960人。
小が大を飲む合併
TBSは1951年に民間放送局として設立。全国28社を結ぶネットワークのテレビとラジオ局も兼営。ビデオソフトの制作・販売や不動産事業も手掛けている。プロ野球の「横浜ベイスターズ」を保有。2005年3月期の売上高は3017億円、営業利益は225億円。時価総額は2700億円(10月14日現在)。従業員数は2988人。
売り上げで見ると、楽天はTBSの数分の1しかない。その楽天がTBSをターゲットにした理由は何か。楽天がTBSへ出した経営統合に関する提案書にそのへんがうかがえる。ここでは1.TBS制作のドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」など番組をあげて、ドラマ、ニュースなどのインターネット配信2.楽天のサービスと組み合わせたDVDソフトの販売やイベントのチケット販売3.ネットとの連動で広告収入のアップと視聴者をTBSの番組への誘導-などと“統合効果"を上げている。
TBSは「番組のネット配信は著作権の問題で簡単にはいかない。番組をネット配信するには出演者、脚本家、音楽家らの権利をひとつひとつクリアしなければいけない。ネットとの連動広告といっても具体的な仕組みがみえない」と疑問を投げかける。
狙いは放送局が保有するコンテンツ
ネット系企業が放送局の保有するコンテンツに目をつけたケースとしては05年年2月のライブドアとフジテレビの抗争がある。ライブドアがフジの親会社にあたるニッポン放送の筆頭株主となりフジ支配を狙った。70日間の抗争の末、資本・業務提携で和解した。
ライブドアの堀江貴文社長は「ネットと既存メディアの融合」を掲げて、フジテレビ、ニッポン放送の保有する映像や音楽などのコンテンツ(番組の中身)をインターネットやブロードバンドで流すことを構想した。
このように、ネット系企業が放送局支配をねらうのは放送局が保有するコンテンツ獲得にあるのは明らかだ。ネット先進国の米国にも先例がある。米国では2001年1月、AOL(アメリカ・オンライン)が複合メディア大手のタイムワーナーと合併した。旧タイム・ワーナーが持つテレビ映画、映画、音楽といったコンテンツをAOLを通じてネットで流す事業モデルを構想した
テレビ側がネット番組配信を自前で始める
しかし、人気のテレビドラマや映画などは著作権者らとの調整に手間取り、ネットで配信する十分な番組数が確保できなかった。また、タイム・ワーナーグループのCNNのニュースやタイムの雑誌記事などを会員向けに有料配信したがニュースなどはネットでは無料で見られるため頓挫した。ライブドアもフジとの和解後に実現したのはフジとの共催イベントのチケットを自社サイトで販売するなど小規模にとどまっている。
フジ、TBSが狙われたことで、各放送局は自前で番組のネット配信を始めた。このままでは番組ネット配信はネット系企業のペースで進みかねないという危機感からだった。 日本テレビは10月28日からネット番組配信を有料で始めた。「第2日本テレビ」と名付け、ニュースやバラエティーなどの映像を1件9円から99円で配信。TBSは11月1日から自社番組の配信をスタート、フジテレビは7月からスポーツ番組などの配信を行っている。テレビ朝日は試験的に有料配信を実施、アニメの配信を始めたテレビ東京も前向きに検討している。
今後、ネット企業による放送局買占めの動きが進むのだろうか。それは、今回の楽天とTBSの争いの決着がどうなるかにかかっている。