将来を展望するための3つのポイント
ポイント1
売れる車を作り続けることができるか
1990年代後半まで日本車を急速に追い上げた米国メーカーが再び劣勢に陥った最大の要因は、売れる車づくりを怠ったことにある。米国では1990年代、従来の乗用車に替わって、ピックアップトラックをはじめとするRVが売れ筋の車種となった。
こうしたなか、トヨタ自動車は、GM、フォードなどビッグ3の対抗車種となる大型のRVを相次いで投入、これまで日本車が手薄だったRVでのラインナップを充実させ、米国市場でのシェアアップを図っている。これに対してビッグ3は既存RVに安住し、新型RVの開発を怠った面は否めない。
フランスのバランシエンヌにあるトヨタ自動車の工場
また、RVが主流になったとはいえ、セダンも依然として大きな市場を形成しているが、ビッグ3はここでも新型車の開発を進めることができなかった。なかでも1990年代半ば、トヨタ自動車のカムリ、ホンダのアコードを抜いて米国でベストセラーカーとなったフォードのトーラスの場合、レンタカー市場にも拡販した結果、中古車価格の低下を招いた。新型車の開発を怠ったことと相まって、2000年代に入ると販売が急減、フォードのシェア低下の要因の1つとなっている。これに対して、トヨタ自動車、ホンダはカムリ、アコードのフルモデルチェンジを逐次実施、販売台数を維持した。このため、RVのヒットがシェア増に結びついた。
劣勢に追いやられたGM、フォードなども巻き返し策に出てくることは確実なだけに、日本メーカーがヒットに奢らず新型車の開発を続けていくことが、今後も好業績を続けるかどうかの大きなポイントになる。
ポイント2
次世代エンジンの開発競争
2004年のF1グランプリ
自動車のエンジンは、これまでガソリンが主流だった。ところが、排気ガス対策など環境規制の強化や地球温暖化問題で省エネルギー車が求められ、1997年、トヨタ自動車がハイブリッドカー・プリウスの販売を開始したことで、自動車エンジンのパラダイム転換が起こった。プリウスはガソリンエンジンと電気で回るモーターの動力を交互に利用して走る車だが、環境に優しいことが受けて発売直後からヒット、2003年までに16万台が生産されている。トヨタ自動車では、エスティマ、クラウンなどにも一部のモデルについて、ハイブリッドエンジン車を導入するとともに、2003年秋にはプリウスのフルモデルチェンジを実施、ハイブリッドカーの強化を進めている。さらにホンダもハイブリッドカーのインサイトをすでに発売、主力車種の1つであるシビックにもハイブリッドエンジン車を導入している。
ここで難しいのは、どのエンジンがガソリンエンジンに代わる主役となるか分からないことだ。燃料電池車が水素を燃料とするため、CO2の排出量が少ない、熱効率が高い、騒音・振動が少ないという点でもっとも注目されている。だが、実用化まではまだ時間がかかるうえ、普及には水素ステーションの設置などインフラの整備が必要になる。また、燃料電池車が先進国で普及したとしても、中国やインドなど新興諸国で売れるようになるまでは、この地域の所得レベルが先進国並みに向上することが前提条件だ。現在、ハイブリッドカーではトヨタ自動車をはじめとする日本メーカーが先行しているが、燃料電池車など他の次世代エンジンでも優位性を保つことができるのかどうか。今後の注目点の1つだろう。
ポイント3
中国など新興市場を開拓できるか
米国や欧州、日本など先進国マーケットが成熟段階に入った今、世界の自動車メーカーにとって新たな主戦場となるのが、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)や東欧などいわゆる新興市場だ。なかでも各国のメーカーにとってもっとも重要な市場となるのが、中国だ。中国の自動車生産は2003年に450万台とフランスを抜いて米国、日本、ドイツに次ぐ世界第4位となったが、年々高成長を続けて2010年には現在の日本並みの1000万台にまで達すると見られている。
銀座4丁目にある日産自動車のショールーム
現在、中国での現地生産は日本メーカーがこれまで米国、欧州など主要輸出マーケットでの現地生産を優先せざるをえなかったこともあって、欧米メーカーがリードしている。なかでも独VWは上海汽車工業、第一汽車との合弁でパサート、ジェッタなどを生産、中国市場で高いシェアを占めている。
一方、出遅れた日本メーカーも、1990年代後半から中国戦略に着手した。広州汽車との合弁でホンダがアコード、オデッセイを生産しているほか、日産自動車も東風汽車と広州市や四川省でサニーの現地生産を行っている。第一汽車傘下の天津汽車とヴィオスの合弁生産を始めたトヨタ自動車は、広州汽車とも合弁を設立、カムリの現地生産を行う準備を進めている。21世紀の最大市場となる可能性をもつ中国戦略の正否が今後の世界の自動車業界地図を大きく左右するカギとなるだろう。