現状
JALとJASの統合で2大航空時代がスタート
羽田空港第2ターミナルは2004年12月1日に開業した
欧米を中心に生き残りをかけた航空会社の統合が繰り返され、国際競争が激しくなる中、2001年9月に起きた米国での同時多発テロは世界の航空会社に深刻な打撃を与えた。日本の航空会社も例外ではなかった。さらに、03年3月に始まったイラク戦争、そして新型肺炎(SARS)と鳥インフルエンザの発生が追い討ちをかけ、国際線を中心に旅客が減って、売り上げが大きく落ち込んだ。その大波が押し寄せる最中の2002年10月、日本航空(JAL)と日本エアシステム(JAS)が経営統合し、日本航空システム(04年6月に日本航空に社名変更)が設立された。新JALグループの売り上げは約2兆円で、世界トップ3に躍り出た。これで国内では、全日本空輸(ANA)との2大航空会社時代がスタートしたことになる。
とはいえ、2大航空会社の先行きはそう楽観できない。04年3月期の連結決算では、新JALグループが収益の柱とする国際線旅客が激減、886億円の当期赤字を計上した。この赤字幅は過去最大で、この結果無配に転落した。一方の全日本空輸は、影響の少ない国内線比率が高いせいもあり、売り上げは横ばいだったが、コスト削減で当期損益は黒字に転じた。04年度に入って、国際線旅客は回復傾向にあるが、原油価格の高騰が収益の足を引っ張っている。
新興勢力は値下げ競争にさらされ、いまだ「離陸」せず
一方、大手2社以外の新興勢力は、大手航空会社との激しい運賃値下げ競争にさらされた上、経営計画の甘さや資金不足も加わり、厳しい経営を強いられている。北海道国際航空(エア・ドゥ)は大手との集客競争の末、業績不振に陥り、02年6月に民事再生法の適用を申請した後、全日空と業務提携を結び、経営再建を進めている。この提携の効果で、04年3月期決算では96年の創業以来初の黒字となった。
羽田―宮崎、熊本を結ぶスカイネットアジア航空(本社・宮崎市)も似た経営環境だ。2004年6月、産業再生機構は同社の経営再建を支援することを決めた。新路線開拓で再建を果たすとしている。 スカイマークエアラインズ(本社・東京)は赤字が続き、04年11月、インターネット企業「ゼロ」(本社・東京)に吸収合併された。羽田―福岡、鹿児島線が軌道に乗ってきたものの、路線拡大はなかなか難しい状態だ。
歴史
86年から規制緩和が段階的に進む
日本の航空行政は、路線ごとに免許を与え、便数から運賃まで、事細かに規制するというのが基本だった。空港の離発着枠も便数などと同時に認可された。しかも大手3社の寡占が続き、競争とは無縁の業界だった。それに風穴をあけたのは、米国の動きだった。米国では1978年に航空規制緩和法が成立、新規参入と運賃の自由化が徐々に進んだ。割引運賃が設定されて、運賃水準は下がり、91年には名門パンナムが倒産するなど急激に業界再編が進んだ。
全日空の機体整備格納庫
日本で「空の自由化」が始まったのは86年で、「日本航空は国際線と国内幹線」、「全日本空輸は国内線全般」、「日本エアシステムは国内ローカル線」という3社すみ分け制を廃止した。94年には羽田空港の発着枠の配分で、後発企業に一定の便数を確保することを決め、認可制だった運賃についても規制が緩和された。98年9月にはスカイマークエアラインズが羽田―福岡線に参入、エア・ドゥも同年12月、羽田―新千歳線を開設した。2000年には、路線設定や便の増減を原則的に自由化、運賃も許可制から事前届け出制になるなど、規制緩和が段階的に進んだ。
将来を展望するための3つのポイント
ポイント1
自由化はどこまで可能か
米国では同時多発テロの後も運賃低下が急激に進んでいる。04年9月にはUSエアウェイズが破産法の適用を申請した。ユナイテッド航空、デルタ航空など大手は軒並みピンチに陥っている。旧来型大手は、格安航空会社が仕掛ける値下げ競争に対抗できなくなっているのだ。これは行き過ぎで、過当競争だ、という見方も日本では強い。一方で、米国は二国間で路線、便数などを完全自由化する「オープンスカイ政策」を掲げ、日本にも市場開放を迫っている。ただ、米国とは条件が違う。国土が狭く、大型空港の数が少なく、基礎的インフラが不足しているため、離発着枠も自由競争というわけにはいかない。米国と違った日本独自の競争、自由化のありかたが問われている。
ポイント2
どこまでできるか経費削減
日本航空が導入した最新鋭旅客機、B777機の離陸光景。B777機は航続距離が14,390kmと長く、2003年8月から欧州線にも就航している。
日本航空と日本エアシステムが経営統合した理由のひとつには、統合によって経費の削減を徹底しよう、という狙いがあげられる。すでに、地上職員を中心に人員削減が進んでいる。米国ではパイロットや機内乗務員の大幅な賃金カットや、労働時間の延長のほか、機内サービスをほとんど廃止したところまで現れている。国内各社が「聖域なき経費削減」ができるのかが、生き残りの条件になりそうだ。
ポイント3
羽田空港拡充はなにをもたらすのか
04年12月に羽田空港に新しいターミナルビルが完成した。09年には4本目の滑走路ができ、国内専用から国際空港としての性格が強まる。年間発着回数は40パーセント以上増え、3万回の国際線枠が新設される予定だ。羽田の充実は成田、関西、中部(05年2月開港)といった主要空港には打撃だ。アジア路線を中心に成田から羽田に発着場所を移す会社が出てくるのは必至だと見られている。利用者の低迷に苦しむ関西にとっても脅威だ。国内、国際線とも、羽田をどう使うかが、航空各社の戦略に大きな影響を与えそうだ。