トヨタ自動車のハイブリッド・カー「プリウス」が米国で売れまくっている。「環境に配慮した」というメッセージがうけて、俳優や政治家までが熱烈なファンになり、それがまたブームを増幅し、納車まで半年待ちという異常事態だ。
「プリウス」が商品化されたのは1997年12月である。ただ当時は「世の中に受け入れられるかどうか分からず、手探り状態」(トヨタ幹部)だった。日本では、車体が一定のサイズより小さい小型車が税制などで有利になる特典がある。初代プリウスは、この小型車規格にあわせて設計され、販売も最初は日本だけだった。しかも、エンジンとモーターの駆動のバランスやブレーキの利き方などは「必ずしも万全の出来ではなかった」(同)という。それでいて同クラスの小型車に比べて50万円以上も高い。つまり商品とはいっても、「環境対策に力を入れている」という企業イメージに貢献することに重点があった。
トヨタ自動車は1997年12月にハイブリッド車プリウスの発売を開始。第2世代のプリウスは2003年9月に発表された。
ガソリン価格の高騰で人気加速
にもかかわらず初代プリウスは順調に売れ、トヨタの予想を上回って年間3万台に迫った。とくに2002年には北米市場で2万台を売り、日本市場の実績を大きく引き離したのである。こうした中で2003年9月に、2代目のブリウスを発売した。2代目は初代に多くの改良を加えているが、重要なのは開発時点からアメリカ市場を意識したことである。まず車体を日本の小型車規格から外し、アメリカのコンパクト・カーサイズにした。またモーター駆動の比率を初代より抑えて、ガソリンエンジン主体とした。長距離ドライブの需要の強いアメリカ向けに、高速走行性を高めたのである。それでも2代目プリウスの販売計画は当初年間8万台弱で、日本と海外市場でほぼ半々だった。その状況を変えたのが、最近の原油高によるガソリン価格の高騰だ。
ジャパン・バッシングが再燃する恐れ
日本の自動車市場はもともと燃費の良い小型車が中心。また国土が狭いこともあって、自動車1台あたりのガソリン使用量はアメリカの半分にも満たない。日本でもガソリン価格が20%程度上がっているが、消費量はほとんど落ちていない。もともと省エネ型社会なのだ。逆にエネルギー消費の大きいアメリカでは原油高の打撃が大きく、日本以上にハイブリッドカーが注目されていると言える。
トヨタは今夏からプリウスの生産ラインを増設し、生産量を6割増の年間13万台に引き上げた。その半分以上をアメリカ市場に振り向ける計画だ。アメリカのビッグスリーは認めていないが、日本の自動車メーカーの技術力はすでにアメリカを圧倒しているというのが自動車業界の常識だ。ハイブリッドカーの開発で、トヨタとホンダが世界の最先端を行っているのがその好例である。とはいえ、いくら人気があるからといってアメリカ向け輸出を増やしすぎるとジャパン・バッシングが再燃する恐れがある。トヨタはプリウスを今後、どこまで米国向けに増産するか、様子をうかがっているのである。